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□第二話
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side>>壱原深月

来店を知らせるブザーを鳴らしながら外に出るとぬくぬくな室内からは想像できないほど冷え込んでいた。まだ10月だというのに今からこんなに寒かったら先が思いやられるではないか。
パンパンにつまったごみ袋を引きずり出し、倉庫に放り投げたときには私の息はすっかり上がっていた。一つ一つは軽くてもまさに塵も積もれば山となる。重たい邪魔物と姿を変える。ため息を一つ、それから自分に渇をいれるために両頬を叩いてみた。

「深月」

「っ総司!と、ごめんね、まだ終わってないんだ」

「大丈夫。待ってるから」

ごめんね、ともう一度手を合わせてから薄手のマフラーを巻いている総司に背を向けた。寒がりの癖に雨だろうが雪だろうが関係なく私のバイトがある日は絶対に終わる時間に会わせて外で待っていてくれる。私も総司の部活が終わる時間に会わせてバイトをしているわけだけど、やっぱりピッタリというわけにはいかない。そんなやり取りももう三年目だ。
店内に戻り、レジスターを片手にお客さんの持ってきた商品をスキャンしながら左手に掴んだ暖かい紅茶を外にいる総司に買ってあげたいと思った。だけど総司は紅茶よりココア。ボンバーテンより森永。とにかく甘党だった。

「おはようございます」

「来たわね鈴ちゃん。じゃあ深月、もう上がっていいわよ」

店内をみれば客足のピークは過ぎたらしく、お客さんが二人、店内でコーヒーを飲みながら雑誌をめくっているだけだった。雑誌といえば最近コンビニで“立ち読みはご遠慮ください”なんて札はあるけど、それはあってないようなものだと思う。雑誌を立ち読みするお父さんの姿のかいコンビニなんてコンビニではない。
先にスタッフルームに入っていった鈴ちゃんこと小鈴さんの後を追いかけてすぐにご対面だ。レジスペースとスタッフルームが接客しているものだから私たちはこの部屋騒ぐことはできない。
すでに着替えはじめてした鈴ちゃんはけっこう着やせするタイプで、見た目Dカップの胸を揺らして私を振り返った。私だってないわけじゃないけど小鈴さんよりは小さい。もちろん三才年上の彼女と比べるのが間違っているのかもしれないけれど、なんだか悲しくなってきて制服のエプロンを取る手が止まってしまう。

「今日も来てたね。なんというか、律儀?」

「総司のことですか?律儀というか...責任感かな、なんて」

「なにそれー」

お母さんが経営するカフェでお手伝いという名のバイトを初めてすぐのころは学校の近くだし、少し遅くなったって一人で帰っていた。だけど変質者がうろつくなんて噂が飛び交うようになり、お母さんが総司に迎えを頼んだのが始まりだったような気がする。正直覚えていないのはそれが私にとってあまりに当たり前のことだからだと思う。
中学生がバイトなんて、と思われがちな私だけど、私からしてみれば家事を手伝っているのと同じ感覚な訳で、部活をしていない代わりに接客をしている。そんな感覚だ。いってしまえばこういう仕事を開いているお母さんのせいでもある。なんて、お金をもらっている身で口が割けても言えるわけがない。

「じゃあ彼氏さんによろしくね」

「だから彼氏じゃありませんって!みんなそういうんだもんなー、」

「え、そうなの?だって...そうなの?」

「そーですよ!あいつは家族です!家族!」

小鈴さんに「頑張ってくださいね!お先に失礼します」と一言かけてからスタッフルームを出るとさっきより少しだけお客さんが増えていた。店内に流れる音楽は相変わらずうるさくない程度のジャズミュージックで、お母さんはリズムを身体で刻みながらコーヒーの豆を挽いている。
私はキッチンに潜り込んで代金を台の上に置き、ホットココアを片手に裏口から店の外に出た。静かに出れば作戦大成功への近道だ。総司はまだ私にきづいていない。一歩、また一歩と近づいていき、何も言わずに自分のものよりずいぶん上にある彼の頬にホットココアの紙カップを押し付けた。

「っ...深月!」

「ひひ、ビックリした?というかしてたよね、やった!」

「作戦大成功!」なんていえば「うるさいなぁ」と思いきり顔をしかめられる。この顔は拗ねている顔だと私にはわかった。総司が顔をしかめるときは拗ねているか悔しがっているかのどちらかだ。一緒のように見えて拗ねているときのほうが唇が突き出るのだからやっぱり分かりやすい。

「そういうこというならあげないよ。深月サマの奢りなんだからね!」

「くれないならおごりも何もないじゃない」

「あれ、そっか」

「ってことでいただき!」

「ああ!!っ...もうー」

暖かい紙コップの温もりが消えた右手はなんだか寂しかった。総司の喉仏が動くのを見つめてそんなに時間はたっていないはずだ。「はい」と差し出されたのは私が買ったココアで、言葉なんかなくても総司が私にくれたのだとわかった。

「おつかれ、深月」

「お疲れさま、総司」

「帰ろっか」といった私の右手には紙コップ、左手には総司の手があった。同じ場所に帰るの私たちは家族のようで家族ではない。だけど恋人でも、親友でもない。幼馴染みという名前の特別な“家族”だった。



(総司は好きだけど、毎晩夜ご飯を作ってくれる総司のお姉ちゃんはもっと好き。だけどそれを言ったら拗ねちゃうんだろうね)

御題処:『ひなた 様』から恋したくなるお題より幼馴染みの恋(02--親友でもなく恋人でもなく…?)

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