RED MOON1
□罠
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―――検事局 執務室 内 PM.9:30
法廷書記官から早々に届いた本日の記録を読み返しながら、検察機関に通達する書類を作成していた。
この件に関しての報告書類は既に作成を終え、残すはその義務を果たす事のみ。接見は連絡待ちという状態である。
―――カチャリ……
PCのキーを叩くリズムに混じり扉の開く音がしたが、無反応のままに作業を続けた。
この様に不躾な来訪をする者は一人しかいない。
「クッ…!裁きの庭の反省会かい、ボウヤ?」
「……何処へ行っていた、神ノ木」
「灰色の時間を持て余しちまったんでなァ……チョイと夜空のジオラマを眺めてきたのさ―――」
紫煙をたゆませながら口元だけをニヤリとさせる神ノ木を一目見て、再びPCの画面へ視線を戻す。
『反省会』―――そう言葉にする辺り、どうやら神ノ木は法廷を傍聴していたらしい。
成歩堂が弁護側に居たせいか、自分は周囲なぞ全く見てはいなかったのだ。
溜息混じりに『帰宅せよ』とは告げたものの。
神ノ木は我が物顔でソファへ腰を落とし、持参したハードカバーを開きながら、流浪の民の亡きがらを灰皿へと捩込んだ。
そんな無言の示威行動は室内を監視する『機械の目』に対しての威嚇行為―――
「今一度だけ言う……帰宅せよ、神ノ木 荘龍」
「クッ!帰宅もいいんだが、独り寝にはチョイと寒くてなァ………待たせてもらうぜ、オレのボウヤ―――」
これより先の行動を予想した神ノ木のそれに、眉間には自然と皺が寄る。
何故、その様にしてまで歯向かい続けるのか。
何度嘲笑されても、闘う事を止めぬのか。
理解に、苦しむ――――
「!……………。」
ジャケットの奥から規則正しいリズムを感じた。
その様子を嘲笑うような振動にPCを閉じる。
机上に重ねた報告書を手にし無言のまま立ち上がると、神ノ木がテーブルに打ち付けるように踵を落とした。
「盲目のウサギは時間にゃチョイとばかり煩いぜ……ヒラヒラのアリス?」
神ノ木が放つ言葉を擦り抜け執務室を後にした。
閉じた扉を背凭れに暫く瞼を伏せ、深い呼吸を三度ほど繰り返して。
(恐れる者など何も無いというのか?……己の闇に脅えてはいても―――)
狩魔の誇りを呼び戻す為に正面を見据えた後、ゆっくりと歩み出す。
―――後に、神ノ木が目前にと現れるのは日付が翌日へと変わる刻の事であった………。
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