RED MOON1
□罠
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†3 ― 罠 ―
「また、君にしてやられたな……」
「僕は悪運が強いから……多分、その辺りだよ」
「ム……運も実力の内であると、君から良く聞いたのだが……」
「うぅ……それ一応、謙遜してみたつもりだったんだけどな……」
それは正攻法をもって、完璧に臨んだ法廷であった。
久々にして対面した成歩堂との裁きの庭で、またしても最後の最後に見事な逆転劇を彼は見せ、結果は検察側の敗北となり閉廷したのだった。
今回の場こそ、正しくジャスティスを貫き通したものである故に、敗北したとはいえ実に清々しい気持ちで満たされていた。
それは成歩堂と闘えたという事も、多大に加味してはいるのだが。
こうして顔を合わせるのも、近頃は公判の場だけとなっている。
その理由を知るが為に、己の不安さえも制御する日々が続いていた。
「……最近、中々尋ねて来ないのは忙しい為なのかね?」
「え……あ、うん―――矢鱈と仕事が多くてさ……それで」
一瞬瞼がピクリと震え、取り繕うような言葉を漏らす。
もし此処で、成歩堂が現況を包み隠さず話してくれたのなら、今すぐにでも私は彼の為に何かしら一計を投じたに違いない。
しかし、成歩堂は頑なにそれを隠し通す―――少し疲れたような笑顔の中に、下手な嘘が見え隠れしていた。
何とかして周りの均衡を保とうとする姿。
誰も失いたくないからと呟く、彼の気持ちを踏みにじる事なぞ出来ずに。
今は、こうして言葉を交わす事だけが彼も…私にとっても救いだった―――
「時間が出来たならば、来訪すると良い……神ノ木も君が来れば喜ぶだろう」
「うん……そう出来るように頑張ってみるよ。…じゃ、また」
「うム……また―――」
また明日、と―――社交的にもそう言えぬ現実。
昨日と明日の僅かな間は 、互いが抱える苦悩のフィールド上を静かに過ぎ去ってゆくだけであった。
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