RED MOON1

□恐怖快楽
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その精神は余りにも深く ……時に非情な刃となって、自分を貪る。

耐え忍ぶ事に馴れてしまったこの身体ですら、悲鳴を上げる程に。

その鍛え上げられた身体は年齢というギャップを感じさせないばかりか、果てる先を予感させない恐怖の助長すらあった。

解放する『快楽』に伴う脳裏の痺れが、理性と現実の狭間を漂い続け―― ただ堕ちてしまうだけの愚者と化してしまう……。


「ヒぅ…ッ……ッ――アア!!!」

「瞬間は静かにただ流れてイクのに……裸のままの姿で…キミは馬鹿ミタイだ…」


もう、吐き出す『快楽』は失ってしまっていた。
垂れ流すヌメリだけが、生物としての本能のありのままを忠実に見せているだけ。

喉笛の様な呼吸を繰り返しながら、この長い、永い攻めに屈服して……脳は意識を遮断しようとしていた。


「ねぇ……もう歌えなくなるくらい、充分満足シタの―――??」


遠い、陽炎の様な遠い声の中に紛れ込む、黒革の軋み。
首筋を包み込む……その黒き手の、歎き。


「全て終わるプロローグ……その代償を払うときは……今?」

「――――うぐ…ッあ……ッ!!!!」


強く握られた首。
ギシギシ…と軋む骨の音――――。


死を予感させるような、動脈の鼓動。

その意識の中に浮かぶ、支配者の哀しげな表情。


(死ぬの……だろうか?)


ここで息絶えたとして……それは『満足出来る「死」』であるのかと考えた。


…何故かは、解らない。


ただ……ひとつだけ。
伺い、尋ねたい事が……たったひとつ、あった。


(貴方は……)


肉親と呼べる者を失って、身請けされた『師』の傍に居る事も叶わず……こうして、彼に従順を 貫いて生きてきた。


………だから。



(……愛してくれたのですか……?)



ならば、私は報われる筈だと―――



それを耳に出来なかった悔念と『死』への恐怖に、何時しか……

一筋の、
涙が頬を、伝う―――。
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