RED MOON1
□赤薔薇
2ページ/7ページ
御剣は椅子から立ち上がり、執務室奥に有る小さなクローゼットから、『狩魔の証』である正装を取り出した。
検事局内でこれを着用する時は、公式な場であるか年間行事に携わる場でしかない。
自らを束縛する為の衣装。背負う因果の総てと、師である『狩魔』への服従の証。
重く飾り立てられた気品の奥深くに眠る、罪深い過ちを纏う事で……自分は師への恩に報いているのだと、未だ信じている。
だからこそ。
それを汚してしまわぬよう――ただ、従順に、従う。
「では、こちらになります」
「うム……。」
程なくして、執務室に届けられた花束を受け取り、部屋を出る。
届けられたそれは赤い薔薇だった。深味のあるワインレッドと、目の覚めるような真紅の混合。
まるで炎のようだと、思った時だった。
不意に舶来の香りがして、前方を見る。
(――神ノ木……)
「クッ…!小綺麗にめかし込んで、何処に行くんだい……ボウヤ?」
「…喫煙は規定の場所でと何時言えば解るのだ」
ニヤニヤと笑みながら、左手から立ちのぼる紫煙を身に纏った神ノ木が、複数のファイルを片手に佇んでいた。
「その血の色に興奮しちまいそうだぜ……」
「フ……見えぬ色すら嗅ぎ取るとでも言うのか?貴様は…」
「あァ……旨そうな赤の匂いがしたからなァ…」
煙を吐き出しながら、神ノ木はその命の灯を掌に包み揉み込む。
『無法者』を気取る馬鹿げたその姿に軽い苛立ちを覚えながらも、素知らぬふりをしてその脇を擦り抜けようとした。
ゆらりと揺れ動く赤薔薇から、甘く蒼い香り。
そして、舶来と珈琲の…苦い匂い。
「退け、神ノ木。」
「……何処に行くんだい?」
「これを届けに行くだけだ……貴様には関係ないであろう……退け」
「クッ!…答えになってねェな……」
耳元で囁きかけられ、苛立ちのトゲがチクリと口を刺す。
「来客用である……急ぐのだ。退け、神ノ木!」
振り払うように身を捩ると、神ノ木は怪訝な表情をし……小さく舌打つ。
道を譲るように身体をずらしはしたが、それでもなお、言葉を止めようとはしなかった。