RED MOON1

□赤薔薇
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御剣は椅子から立ち上がり、執務室奥に有る小さなクローゼットから、『狩魔の証』である正装を取り出した。

検事局内でこれを着用する時は、公式な場であるか年間行事に携わる場でしかない。

自らを束縛する為の衣装。背負う因果の総てと、師である『狩魔』への服従の証。

重く飾り立てられた気品の奥深くに眠る、罪深い過ちを纏う事で……自分は師への恩に報いているのだと、未だ信じている。

だからこそ。

それを汚してしまわぬよう――ただ、従順に、従う。






「では、こちらになります」

「うム……。」


程なくして、執務室に届けられた花束を受け取り、部屋を出る。

届けられたそれは赤い薔薇だった。深味のあるワインレッドと、目の覚めるような真紅の混合。

まるで炎のようだと、思った時だった。

不意に舶来の香りがして、前方を見る。

(――神ノ木……)


「クッ…!小綺麗にめかし込んで、何処に行くんだい……ボウヤ?」

「…喫煙は規定の場所でと何時言えば解るのだ」


ニヤニヤと笑みながら、左手から立ちのぼる紫煙を身に纏った神ノ木が、複数のファイルを片手に佇んでいた。


「その血の色に興奮しちまいそうだぜ……」

「フ……見えぬ色すら嗅ぎ取るとでも言うのか?貴様は…」

「あァ……旨そうな赤の匂いがしたからなァ…」


煙を吐き出しながら、神ノ木はその命の灯を掌に包み揉み込む。

『無法者』を気取る馬鹿げたその姿に軽い苛立ちを覚えながらも、素知らぬふりをしてその脇を擦り抜けようとした。

ゆらりと揺れ動く赤薔薇から、甘く蒼い香り。
そして、舶来と珈琲の…苦い匂い。


「退け、神ノ木。」

「……何処に行くんだい?」

「これを届けに行くだけだ……貴様には関係ないであろう……退け」

「クッ!…答えになってねェな……」


耳元で囁きかけられ、苛立ちのトゲがチクリと口を刺す。


「来客用である……急ぐのだ。退け、神ノ木!」


振り払うように身を捩ると、神ノ木は怪訝な表情をし……小さく舌打つ。


道を譲るように身体をずらしはしたが、それでもなお、言葉を止めようとはしなかった。
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