RED MOON1
□老人と海
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――――PM6:00
検事局エントランス
「……お待たせ致しました」
「ム……」
何時ものSPと違う事に気付き、御剣は少々怪訝な表情を浮かべた。
「……厳徒局長は?」
「…現地で合流する、と」
車内に厳徒局長の姿はなく、小さなテーブルの上にシャンパングラスが1つ。ペーパーコースターの代用にしたのか、メモらしき物がある。
御剣は車内に身を滑り込ませ、そのグラスの下に挟まれたメモに目を落とした。
――喉を潤しておいで
グラスの中では琥珀色の液体がフツフツと華やかな泡を立てている。色合いは淡くグリーンかかった黄金色だった。
「現地到着まで30分程です。では―――」
スローに閉じられるドアの僅か後に、御剣を乗せたリムジンは発進する。
月光に照らされたハイウェイに上がる漆黒のリムジン。
(……ハイウェイで30分の場所…?)
方向から見て、どうやら海へと続くそのルート。
…あの問いには、そんな含みがあったのだ、と。
(……仕事ではなかった…か……)
もし、その様な経過ならば厳徒の息がかった施設が使用されるのが常だった。
懸念していた事態を避けられた事に安堵し、その用意されていたシャンパンに口を付けた。
香り高く高貴な薫りが鼻腔を抜け、その味わいの深さは幾分表情を緩ませてくれた。
――――しかし…
(―――う……ッ…)
グラスの半分を口にした辺りで、覚えのある感覚が身体の内部から染みの様に拡がりを見せはじめる。
「……ッ……う……」
次第に小刻みに震えゆく身体。血管には蠢くような甘い疼き。
(――毒……手……)
次第に荒くなる呼吸と、額に滲み出る汗。
じわじわと下肢の中心に疼きが生まれ、いつの間にか腕が身体をかき抱いていた。
「……ッ……ンァ…」
身体を支える事もままならなくなり、遂にはシートへと横たえてしまった。
――今迄にない投与量だった。
脳裏までも侵食されそうなあの毒の疼き。
囁くように甘く悶え続け……意識さえも途絶えそうになった時―――
鼓膜に波の音が、響いた。