RED MOON1

□その指が解けたら
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―――地裁第二法廷内。

傍観席頭上のマジックミラーから…恐らく、支配者は笑みを浮かべ見下ろしている。

異議を唱えるタイミングや説明等を繰り返す度に、『種』は体内で様々な強弱のバイブレーションを引き起こしていた。


(――ッ…う……)


『種』は外側が真綿のような物に包まれていて、体液を吸収して膨脹し、体内に留まる仕組みらしい。

審議は漸く後半といった辺り。
決定的な刺激ではない分、ゆるりゆるりと反応を見せてゆく自身が次第にスラックスを持ち上げてしまっていた。


「では検察側、この証拠品についての指紋照合結果の不明瞭な点について説明を」

「ム…これらのデータは……ンッ…科研から再三に亘……ッ――」

「…大丈夫ですか?開廷から何やら体調が悪いように見うけられますが……」


重要な山場を迎えた辺りで――突然の強震が体内を襲った。


「ふ…ッ…――だ…大丈…夫だ…ッ!続……ン…う……」


傍聴席からのざわめく声がとても遠く……それは耳鳴りの様に御剣に届く。

その振動は治まらない。

次第にあの疼きの波がジワジワと下肢に拡がりを見せ始めて……。


(醜態を…曝…す…訳に…は――ッ……)


熱い息を潜め、漏れそうになるアノ声を奥歯で強く噛み締めて。

眉根を寄せ、壇に乗せた手が爪を立てる。

――無意識に見上げた、高見の窓。


(もう……お許し下さい……)


懇願する祈りの言葉を唱えた。

プライドと、押し寄せる快楽の波と、あの黒い指に八方塞がりのまま……膝が落ちそうになりながら。


――だが。

その祈りは…思いも因らぬ人物に届いた―――。



【――選手交代、だ】


傍聴席からハスキーな声と、紅い三本の眼が御剣に向かう。

…そして、それを嘲笑う様にして、『種』は漸く沈黙した……。


―――カンッ!


木鎚が振り下ろされ、傍聴席のざわめきを一喝し、裁判長から一旦休廷の声が響いた。


「……ボウヤ…」

「……余計な…真似を…ッ」


ゴドーは小さく舌打ち、御剣の身体を引き上げると、その腕を取り…半ば強引に控室へと向かった。
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