RED MOON1

□ほどけない糸
2ページ/7ページ


この様な会食会に同席するという事は『お披露目』と『DOLL』…二つの意味合いを含んでいた。

最近では全くといって良い程、列席する事など無かった宴の中。
その昔は師に連れられ、かなりの数を熟していた。
様々な権力者達が、こんな身体を通り過ぎて……。

そんな――思い出したくない過去や罪の数々を今、心中想起してしまっている。

(明日は……公判と会議…案件の整理…)


もし今宵、あの頃と同じに――そう考えただけで気が滅入ってくる。

表情こそ凛とし、感情を消していたが。
隣に座る厳徒がいつ、それを勅命する為に耳打ちして来るのかと…内心、気が気でなかったのだ。


「随分と立派になったね。…活躍は聞いているよ、御剣怜侍くん」


不意に名を呼ばれ、斜め向かいに座る男を切れ長の瞳が捕える。

一々顔なぞ覚えてはいないと胸中で呟きながら、軽い会釈を返した。


「……恐れ入ります」

「とても精悍な顔立ちになった。あの頃は儚げだったけれど」


儚げ……かと。
少しばかり自嘲滋味た笑いが込み上げて来る。


(貴様の為にではない…師の誇りを護るが故に、だ)


『服従』という師弟関係の中で、それを嫌だとは一度も口にはしなかった。
それは恩に報いる為と、高みを目指す為だけの切り売り。

それに心なぞ、ない。
だから『DOLL』と呼ばれたのだと、半ば説弁気味に心中で語る。
恐らくは……自分を暴いた者の一人だと思う。舐め回す様な視線が堪らなく嫌だった。

些か返答に迷っていると、煙草に灯を点した厳徒が口を挟む様に…意外な言葉で場を繋ぐ。


「ああ…ザンネンだけど彼ねぇ…今ではボクのお気に入りだから…そう簡単には出せないなァ」


一瞬、威圧を孕む眼光を垣間見せたものの、直ぐに厳徒は人当たりの良い笑顔を見せ、紫煙をくねらせた。

そしてチラリと、御剣を見る。


「彼の位置は非常に微妙でねぇ…天国ほどは遠くないケド現実ほど近くないから。」

「――なるほどね。」


暗黙の了解、といった感じで会話はそこで途切れた。

御剣は不思議に思いながらもそれ以上の詮索はせず…この刻が過ぎ去るのを待ち続けたのだった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ