RED MOON1
□Memory
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――それから数日後…
御剣は執務室で案件の整理に追われていた。
早朝、厳徒から手渡された辞書並の厚さを持つ『重要文書』。
これを夕刻までにと命ぜられ、本日の予定である案件の整理を優先に熟していたのだった。
下級検事達に分配をしなければ何事先に進まずである。彼等を路頭に迷わす訳にはいかない。
…しかし、この『重要文書』も完璧に記入しなければ……また、何かと厄介事となるのだ。
「クッ!…随分とキツイ宿題じゃねェか、ボウヤ…」
「見て解るのであれば、早々に自室へと戻れ!貴様の戯事に構う暇なぞないのだ!!」
ゴドーは自らの執務を既に熟し、それらを御剣に手渡す為に来室していた。
昼を知らせるメロディが廊下を流れ、それを耳にしたゴドーが昼食を共にと誘う。
だが、そんな時間は無い。
私に構うなと眉間に皺を寄せた御剣を、ゴドーは背後から椅子越しに机上へと両手をつき、書類を覗き込みながら耳元で囁いた。
「あのエンパイア野郎のモンなんざ適当にやればいいだろうぜ?…まァ後で、オレも加勢するがな……行こうぜ、ボウヤ…」
「――勅命である。貴様の助けなぞ要らぬのだ」
ゴドーは小さく舌打ちし、天井に有る火災報知器を睨み据える。
それはチカチカと、自身には見えぬ色が点滅を繰り返し、嘲笑った……。
「メシが済んだら、ソイツと一緒にオレの部屋に来い……いいな?」
幾分苛立つ声でゴドーが呟くと、御剣はチラリとその横顔を見て、
「――煩い……」
と、か細く返答した。
「クッ!何とも苦ェ…囚われのお姫様…だぜ」
「!!」
耳穴に舌を捩込まれ、それから逃れようと顔をずらすが、ゴドーの腕に遮られてしまう。
幾度も繰り返されてきた情事を真似る舌先に、ペンを握る手は怒りを現わにし…拳が机上を強打した。
「貴様に何が解る?!下らぬ感情で何故私を愚弄するのかッ!!!」
御剣は冷静に答える事が出来ず、その感情有りのままにゴドーへと叫ぶ。
――私は献上された身なのだ、と。
声立たせた御剣の言葉に…ゴドーは身を離す。
沈黙し、扉へと向かいながら『迎えに来る』とだけ吐き出して、部屋を後にしたのだった。