WHITE MOON

□巌徒さんの愉快な一日
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―――地裁 第5法廷


上から見下ろす景色とはまた違い、ざわめく声の波が鼓膜を心地良く揺らす。

今日はやけに賑やかだ。
たまにはこうして、見下ろされるのも悪くナイ。
隣で矢鱈と緊張する狩魔の正装も実に愉快で。


「あ、ええとですな……検事側の……厳徒…検事局長」

「ン?ナニかな?」

「この裁判に、何か重大な事でも……?」

「ふぅん……裁きの庭にツマラナイ罪なんてあるのかな?……裁判長?」

「いやいや、滅相もない!!」


検事側の主導権は御剣クンだ。ボクは彼の補助役として入廷書類にサインしている。

今日一日ボクと同行するよう命じた時に、この法廷が有るというので、まぁそんな形で同じ位置に立っていると言うワケ。

主導権を握らせてアゲているのに何故か半歩後ろに下がってしまっている。
対面向こうの弁護側に居る蒼いコは、入廷するなりボクを見て髪の毛を更に逆立てていた。
席についてもチラチラ、オロオロと実に落ち着きがなく、見ているだけでも実に愉快だ。


「やあ!なるほどちゃん!!泳いでる?」

「アワワワ……!え、たっ、たたたまに!!」

「だってさ、御剣クン」

「は……………」


狩魔クンとは此処に並んだ事は無かった。
その後継者である彼は、素直にボクの隣に居るけれど。

その長い前髪の先を見れば、法廷入口の壁に寄り掛かっている銀髪のケモノ。
憎悪や嫉妬といった、あからさまに敵対するという視線がとてもキモチよくて、ボクは指先で小さな挑発の仕草を投げた。

未だざわつく傍聴席に向け、裁判長の木槌がカンカンと打たれる。


「静粛にッ!それでは、前回の続き……凶器について被告人への尋問からという事で…検事側」

「ム……では………」


御剣クンはボクにまた一礼して、手元の資料を片手に狩魔クンに似た長い説明と嫌味を混じえながら、実に淡々と場を進めていった。

弁護側に居る蒼いコが『異議あり!』と元気よく 叫ぶ度にボクはニッコリ笑って小さく手を振ってやる。
すると途端に勢いがなくなって、モジョモジョと異議を唱えていた。


(邪魔しちゃカワイソウかなァ……)


普段は余り感情の波を見せない御剣クンも、何か言いたげにチラチラと困惑の視線でボクに訴えていた。

それと……。

今日の予定まで、後30分。
まさかこの法廷を放棄させる訳にもイカナイし、ボクの予定を変える訳にもいかない。


(まァ、たまには……イイかな?)


顎髭をポリポリと掻きながらボクは御剣クンに顔を寄せ、こう耳打ちをした。



【アト5分だけ―――待つよ……】



ソレに驚く切れ長の瞳が、既に謝罪の光を見せてしまって。

いちたすいちが『2』としか答えられない彼に、『3』である可能性を見せてあげる事にした。
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