WHITE MOON

□親愛なる迷える子羊へ
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足りないピースを『完璧』に創り出せば、矛盾など有り得ない。

昔はそれを繰り返して、使えるものは全て駆使した。それは長きに亘る『敗北など絶対に許されない』修羅の道だったのだ。

しかし今、師である『狩魔』の永久拘束の為にそれは緩和され、正攻法の一途を辿っている。

自らを取り巻く環境も変貌した。神ノ木の検事職復帰が齎したものは、『正攻法』という検事としての本来有るべき姿だった。

許されない敗北とは、法曹界や政界を揺るがす案件の場合に限る時であり……それが起こりうる事例は総て、あの『厳徒海慈』が闇の内に調整を施している。


パンドラの箱に、最後に残った希望の光―――正義という名を残そうとするならば、こうして正攻法で向かう『裁きの庭』に総てが在る。

高見を目指す事を忘れた訳ではない。
しかしそれを正義という名の元で手にしたいと望んでいる。

その結果……敗北という現実を齎すのだ。


(まだ…学ぶべき事は多い……君にも、神ノ木にも)


そして、あのフィアレスからも……。






―――コツ、コツ……


「―――どう……」

「やあ!チョット散歩ついでに来てみたよ」

「厳徒局長――!」


何故毎回驚くかなァ、と厳徒は笑う。

神妙な顔をして書類を書き綴っていた御剣は即座に席を立ち、深く一礼した。


「深く眠るプロレスラーの脇で、『ワン・ツー・スリー』って言うと、半身を起こすんだよ。知ってた?」
「???いえ……知り得てはいませんでした…」

「ん…それは職業病っていうかパブロフの犬と同じ種類、なんだけどねぇ…」


笑みながら、厳徒は御剣に手招きをする。
普段ならばソファへと腰を据えるのだが…今日は、扉から少し歩んだだけで足を止めた。

そして、自身の元へ来いと黒い手が無言のまま勅命する……。


(――――。)


御剣は感情乱れぬ顔を保ちつつ、即座に厳徒の前へと立ち、再び深く腰を折った。

そんな様子を厳徒は、後ろ手に組み観察する。その凛とした瞳が、ゆっくりと自分を見るまで。


「ボクがそう造ったんだから……仕方ナイのかもしれないんだけど、ね。」


僅かに、御剣の眉根が動く。
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