PINK CAT

□sadstic night
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―――成歩堂法律事務所 PM.10:15



対・御剣の法廷は久々にエキサイトして、僕は相変わらず冷汗や油汗をかきながらも事件の真相を突き止めて見事、逆転の勝利を得た。

依頼人の嬉しそうな笑顔に弁護士として大きな仕事をまたひとつ果たせた事に、心地よい充実感を味わっている。
最近はクライアント絡みの仕事が多くて、今日のような法廷の雰囲気を僕は忘れかけていたらしい。


(御剣やゴドーさんと、ずっとこうして闘えたらいいな……)


閉廷後、御剣と久々に交わした握手の感覚が今でも掌にやんわりと残っていて。
細くて少し冷たい指先に、僕を気遣う言葉を乗せて淋しそうに笑っていた。

その要因は、僕がサインしてしまった『専属顧問弁護士契約』だと分かっている。
何れは知られてしまうとは思っていたけれど………出来ることなら一日でも長く先延ばしにしていたかった。

きっと御剣は、僕の為にその内容を全て把握してしまうのだろうから………



――♪〜♪♪〜♪



「――――!!!!」


事務所の静寂を破った着メロは、クライアントが僕を呼び出す《破滅のマーチ》だった。

追い立てるようなマーチングのリズムに追憶のラッパが響いて、僕の身体は一瞬ビクリと震えた後、足元からザワザワと鳥肌が立ちのぼる。

古びたホルダーに起立する携帯へと手を伸ばしながら、僕は小さく首を振った。


「ステキな法廷だったよ―――さすが、ボクの専属顧問だねぇ……」

「あ……あの……何かご用ですか―――?」

「イヌが操る黒いイキモノに乗っておいで?なるほどちゃん―――」



―――ツー……ツー……



一方的に用件が伝えられ、何を返答する間もなく通話は一方的に切断してしまった。

ああ、またかと僕は携帯をポケットにしまい込みながら窓際に歩み、閉じたブランドの隙間を指先で押し下げる。


街灯に照らされ浮かぶ、路肩に横付けされたリムジンは、静かな排気音と共に街の一部みたいになっていた。

僕にとって、それは飾りのない『霊柩車』でしかない。

護送され、辿り着く先にあるのは死人の冷たさを持つ黒革の手。
十字架はあっても、救いは長い夜の果てにだけ。


やがて開かれる事務所の扉の前で、僕はコートを羽織りながら御剣と交わした握手をもう一度思い出して、ポケットに深く手を沈めたのだった。



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