PINK CAT
□深海
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いっその事、相談してみようかとも思ったのだが、性的な含みが有る故に…やはり言い出せないでいた。
痴漢の一件の時も、彼は懸命に自分を守ろうとしてくれたのだ。
ましてや、相手は御剣の上司に当たる人物。自分の厄介事に巻き込んだが為に、その立場すら危うくしてしまう可能性も充分に有り得る。
「…あ、ちょっと用事があるんだ、その日は」
「ム……そうか。ではまたの機会にしよう」
少しばかり眉根を寄せ、御剣は残念そうに笑った。
ごめん、と謝罪を返したのだが…その途端に御剣の表情が少し、訝しげに変わる。
「……何か悩み事でも有るのか、成歩堂?」
「え…なんで……?」
「いや……少しばかり、そんな気がしたのだ。済まない。」
凄いな、と思った。
相変わらず御剣は鋭い。
臆病な自分の、そんな言い出しずらい事を探り当て、こうして切り出すきっかけを与えてくれる。
やはり父親が有能な弁護士であっただけあって、その血は争えないと思った。
―――だが。
それに甘んじる訳にはいかないのだ。
…今回ばかりは。
「じゃあさ、その代わり事務所まで乗せてってくれると嬉しいんだけどな」
「ム……了解した」
漸く安心したのか、御剣は優しく笑う。
先に控えた不安は消えないまでも、ちょっとした勇気を貰ったような…そんな気がした。
「まだ何かいいたげだね、なるほどちゃん?」
「んッ―――!」
「非現実的な現実世界…ソレが社会の仕組みだよ?」
やはり怒らせてしまったのかと、成歩堂は残り僅かな意識にしがみついていた。
…今夜も同じように、ルームサービスでのディナーだった。
会食が始まる前に、成歩堂は厳徒に【契約破棄請願書】と題した書面を差し出した。
口で言えぬなら、書面という手が有ると……あの日、御剣の操るスープラの中で決意して作成したものであったのだ。
厳徒はそれを手元に置き、ふうん…とだけ呟いただけで後は何時もと変わらぬままに会食をしながらの会話を繰り返し。
そして、同じ様に手を引かれ……同じ行為をされうなだれていた時に、そう話し掛けられたのだった。