BLUE CAT

□Tension
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鞄の取っ手を強く握り締め、未だザワザワとする身体を落ち着かせながら窓のない廊下を歩く。

不気味な薄笑いを浮かべたSPの視線を背中に感じつつ、僕はこの先にあるエレベーターに向かっていた。
これから先の事を考えてしまうと、足は鉛のように重い。


(何で僕なんかを……)


日増しにその行為はエスカレートしてゆくばかりだった。相手が相手だけに、誰かに相談のひとつも出来ないまま。

僕の精神的な支えは、この建物内に居るあの二人。今は、中々時間が取れなくて疎遠してしまってはいるけれど。
たまに地裁で顔を合わせてさえいれば土曜の夜の事も、あんな悪戯をされても我慢出来る。

怖いのは、二人を失ってしまう事。クライアントは二人の上司だから何をするか分からない。

二人に要らぬ心配や迷惑を掛けたくない……状況が変わってしまったのは、臆病な僕があの書類にサインしてしまったせいなのだから。



―――カ…ツ…カツ…カツ……


沈黙する廊下から、不意に足音が聞こえて僕はビクリと身を震わせる。
その音は下階にと続く唯一の階段から聞こえてきた。

僕には直ぐその足音の主が分かってしまう。階段を使う人物で、このフロアに関係するとしたら―――


「!……成歩堂」

「やっぱり御剣だった、その足音」


僅か数メートル先のエレベーターに逃げ込む暇もなく、僕は懸命な笑顔を御剣に見せていた。

しかし御剣は驚きながらも、何時もなら緩む口元を歪ませ困惑の表情を浮かべている。
次に御剣が何を言葉にするか予想出来る分、僕は益々ややこしい笑みとなってしまっていた。


「何故、君がこのフロアに………」

「あ……うん、ちょっとした社会見学のつもりでさ……ゴメン」


御剣は鋭いから、僕はなるべく視線を逸らさずに答えた。
そして、何か言いたげな薄い唇が追求を漏らさない事を祈る。

嘘は嘘を呼び、不安という坂道を転がり落ちて行く雪玉のようだけれど。
それでも、貫き通したい嘘だから。


「……成歩堂」

「なに……?」


聞き返す僕の声は震えてしまう。
お願い、追求しないでと奥歯を噛みながら情けない笑顔を作る。

微かにさざめく口元に僕は怯えていた。
しかし……切れ長の眼は伏し目がちに僕を見据えて――――ふっ…と斜めに視線を逸らしたのだった。


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