BLUE CAT

□止めてください
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「ン〜……なるほどちゃんて、意外と欧米?」

「?……あのぅ、意味が良く分からないんですが……⁇」

「じゃあ、ハイ!」


突然の密室劇にオロオロしていると、ホラー張りの“おいでおいで”が、掌を上に返し陽気な“Come on”になっている。
そうか、だから欧米なんだ!と大納得し、足が自然と局長さんの方へ一歩踏み出してから、上手く流されている自分にギョッとして立ち止まった。

ふぅん、と呟いた局長さんはポリポリと髭を掻いて、不思議そうな表情を浮かべている。
職員ならともかく部外者な僕に手招き自体が疑問符だ。

大体、逃がしません的なこの状況を作り出した当人に手招きされて、ハイハイと行く奇特な人なんかいない。
……流される事はあるだろうけど。


「じゃぁ、こうしよう?朝からチョッピリ頭の体操!」

「あのぅ……御剣も居ないし、出来れば僕は帰りた……」

「なら、脚の体操にする?狭いケド、鬼ごっことか!」

「頭の体操でお願いします……」


相変わらずの無視と、問答無用で選択不能なその二択。
追い回されるのは怖いから当然、頭の体操と答える。

机の前に移動しながら陽気な鼻歌に乗せて動く黒革の指先。
見た目に機嫌は良いみたいだから、それに付き合えば早く解放して貰えそうだ。


「ン!じゃあルールを説明するよ?ボクが出すナゾナゾに三問正解で、もれなくSPクンが扉を大解放!」

「えぇと……三問正解でって事は、正解するまで帰れないとか……?」

「アハハ!それはナイよ。だってココ、御剣クンの執務室だし、ルールには続きもあるし!」

「ルール??しかも続くって……」

「でね、不正解の場合はボクがココからこう一歩……なるほどちゃんに近付くんだ」


長い脚をコンパスのようにヒョイと広げ、局長さんが一歩手前に進む。
随分と幅のある一歩に、きっとゴドーさんもこれくらい進むんじゃないかと想像して、少しボンヤリしたのだけれど。

目の前の現実を直視すれば、『三回』の正解が不正解だった場合には結構な至近距離になる。
至近距離になるという事は、また妙な事に発展する可能性があったり、拉致紛いに連れ回される事だって否定できない。

下手するとシルバーウィークの予定を立てる以前に、本日がシルバーデーに変更されてしまいそうな勢いなのだから。


「ま、ままま待ったです、局長さん!!」

「アハハ!じゃあ張り切って、第一問!」

「ゔぅ……待ったなしだ───」


相変わらず御意見無用なルールと進行に最近じゃ『遭遇は諦めの始まり』といった、自分ことわざまで浮かぶ始末。

そのうち標語まで出来るんじゃないかと冷汗を垂らしながら、解答を余儀なくされた問題に仕方無く耳を傾けた。


「昨日貰った花束の問題。2本抜きとったらすべてがバラ、2本抜きとったらすべてがユリ、2本抜きとったらすべてがカーネーション。さて、コレはどんな花束?」

「どんな花束……」

「何が何本かを答えてね?さ、ボクの唄が終わるまでが制限時間だよ〜!」

「え゛、制限時間あるんですか⁈」

「ポッポッポ〜♩はとポッポ〜♫」

「うわぁ……えっと!ええと‼」


なぞなぞと軽く言ったのに、問題が意外と本気な謎に僕は焦る。
サラッと制限時間が追加された上に、唄が童謡だし矢鱈と短い。

はとぽっぽを笑顔で歌う局長さんも少し怖いし、昨日貰った花束に何が何本だなんて知る訳が無い。
解答よりもツッコミ処が多過ぎて、頭の中は大パニックだ。


「マメが欲しいか♩そらあげない♫」

「えええっ……と───あれ?歌詞が違……」

「世の中そんなに♩甘くナイ♫」

「いやいやいや!あげて下さいよマメ!!」

「アハハ!ハイ、時間だよ!コタエはなぁに、なるほどちゃん?」

「あ⁈えぇ、ああ、ええと……そのぅ」


まさかの替え歌にツッコミを入れてしまったけれど、肝心な解答は全く思い付かずで僕は吃る。
大体じっくり考えた所で、これが本当になぞなぞなのか?とも思っていた。

だから素直に『分かりません』と答えてみた。
確実に一歩は近付くけれども、まだ二歩分の余裕がある。

解答を聞いてからでも、きっと遅くはない───なぞなぞじゃ無ければ無いなりに、その意図さえ理解出来れば僕にだって答えは分かる筈だから。


「ン〜。結構カンタンな問題を選んだつもり、だったんだケドねぇ───正解は、『バラ、ユリ、カーネーションが1本ずつの花束』でした!2本抜けば、残った花は一種類だけになるんだよ?」

「あ……なるほど、そう言われれば!」

「そういえばコレ、神ノ木ちゃんにも言ってみたんだ。でも実にアッサリ答えちゃってねぇ。『馬鹿にしてるのか?』って随分ご立腹だったなァ……」

「───ゔぅ」

「じゃあ不正解分……ハイ、いっぽ!」


ゴドーさんがあっさり答えたという事は、これは本当になぞなぞらしい。
ヒョイっと一歩前に踏み出した局長さんが、満面の笑みを浮かべ、ポン!と一つ柏手を打った。




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