素敵な頂き物小説
□CHOCoLATe
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「………はぁ……。」
トントン、と書類の束をデスクの上で整えながら成歩堂はため息を吐いた。
その日でもう何度目かわからないため息。まとめた書類をクリップで止め、脇に重ね上げると今度は自分の肩をトントン、と叩いた。
「疲れた……。」
声に出せば更に疲れが増すようで。
大きな窓から入る西日に背中を照らされながら、成歩堂は半眼でちらりと時計を見た。
時計の針はそろそろ世間一般的に一日の業務が終わる時間を指していて。
しかし、面倒な案件を抱えた今の成歩堂にはそれも関係のないことだった。
随分長いこと日付が変わってからの帰宅を成歩堂は続けている。これでは逢いたい人にも逢えないと、そう思えばまたため息が漏れた。
「……よし、コーヒーでもいれるかっ!!」
気合を入れるように、成歩堂は勢いよく席から立ち上がる。
スイッチ一つですぐ飲めるような、簡単で味もそこそこなインスタントコーヒーをカップに注ぐ。
暫らく逢っていない愛しい人に想いを馳せて。立ち昇るコーヒーの香りが成歩堂の心を落着かせた。
しかしその香りは嫌でも愛しい人を思い出させて、逆に逢いたい気持ちは募っていく。
「…ゴドーさん……。」
成歩堂は半ば無意識にそう呟く。
今まで何度か、忙しい合間を縫ってゴドーに電話をかけようと携帯画面を見つめたことが何度もあった。だがどうしても、あと一歩が踏み切れずに今に至る。
時間が遅いからだとか、ゴドーも忙しいかもしれないからだとか、言い訳でしかないものが頭の中を駆け巡る。
そして今も、椅子の背もたれに深く身を預けてただ携帯の画面を見つめるだけだった。