RED MOON1
□夜のしじまに
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絶え間無く降りしきる
雨にうたれて
君だけは護りたい
どんな夜でも――――
§6『夜のしじまに』
バックミラーに映る自分の目は、夢遊を孕み虚ろなままだった。
スープラのハンドルに腕を擡げ、御剣は煉瓦の教会を見つめる。
(惨劇は繰り返される……囚われている限り…)
絶望はやがて、死を彷彿とさせる。
『死』とは、恐怖でもあり、業の総てから解放される甘美な呪文でもある。
苦悩しそれを思う時、人は精神の平静さを取り戻すという。
かつての神ノ木はそう願っていたが……自身は今、正しくその心境だった。
しかし―――その甘美さをもってしても、消えぬ想いがある。
自分が死して全てが終焉を迎える訳ではない。
肉体の死も、魂の死も…それを救う方法にはなり得ないのだから………。
―――ざぁああ……
激しい雨粒がフロントガラスを叩く。
砕けた光は街をステンドグラスの情景へと変えた。
(成歩堂………)
深く広がる光と意識の中、懐から携帯を取り出す。短縮ダイヤルキーを押しコール音を数えながら、あの声が耳に届くのを待ち続けた。
幾度となく来た道を通り、見馴れたアパートの前に御剣のスープラは辿り着いていた。
落ちる雨とワイパーの滑る音だけが全ての空間で、彼が現れるのを待つ。
やがて滲む薄明かりの中、建物の2階から光が漏れ――不思議と懐かしく思うその姿を目で追いながら、ドアのロックを解除した。
傘もささず雨粒を弾かせながら、成歩堂は助手席のドアを勢いよく開け、車内に滑り込む。
「こういうのを『土砂降り』って言うんだろうなぁ……」
「確かに……」
「で、話しって何?」
不思議そうに顔を覗く成歩堂に、笑みのひとつも出せぬまま。
御剣は静かにスープラのアクセルを踏み込んだ。