RED MOON1
□啼く小鳥
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§4『啼く小鳥』
自室のドアを開けると、待ち構えていたと言わんばかりにソファから立ち上がる神ノ木の姿があった。
歪む口元がその苛立ちの全てを表現している―――自身の目の届かぬ所で一体何をしていたのかと……そう言いたいのだろう。
「オレは一杯食わされて、何処までも憂鬱さ……ボウヤ」
「……………。」
近付く神ノ木に無言のまま、手にした会議録書を押し付ける。
非常に遺憾であると、言いはしたかったのだが。
……上手く口が動かないのだ。
「ご褒美にキスの一つを与えてもいい……そうは思わないのかい?」
「……………。」
「アレに見せ付けてやれる位に、だ―――」
受け取った書類を握り潰す手が首にと回され、赤い三本眼のマスクが顔に近付く。
重ねられた唇からは、苦い舶来の薫り。
そして身体を疾駆するゾクリとした異変に、溜息のような声が漏れた。
「クソ………身体検査が済んだら、生理学も付き合って貰うぜ?」
「ふ…ッ―――ッ…」
「オレに溺れちまいな……今はそれ以外に手はねェ……」
唇を奪われながら、身体を包む全てを褐色の手は削いでゆく。
組み敷く形で床にと転がり、腕に残る先刻の拘束跡を唇が這う。
あれが通常の媚薬とは違う物だと気付いたのは、下肢を這う手の感触が余りにも快楽中枢を刺激するという事。
狂いそうになる程の吐精感が襲い掛かり、惨めな程に呆気なく白濁を散らせた。
「あ…ンッ!!――ン…ア…アアア……ッ……!!」
「酷ェな……クソ…ッ」
舌打ちばかりを繰り返しながら、普段ならば長い絡みを好む神ノ木が、一気に侵入してきた。
だが、痛みはない……熱いそれにすら、快楽を感じている。
堕落としか言いようの無い、哀しい姿。
触れられる場所総てが、性感体となってしまっているのだ。
半身を沈めたまま、神ノ木は動かない。
とめどない吐精の叫びを聞きながら、抱擁したままに。
身体の中で、波打つ神ノ木が遠くなる。
このまま、全て消えてしまえばいいとすら思う………。
「か…みの……ぎ……」
「あァ……もう眠りな…オレのボウヤ―――」
深闇にと堕ちる前に聞いたその声に、頬に一筋だけ涙の跡を残し……快楽の波は漸く事切れたのだった。