RED MOON1
□悪夢は醒めない
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§3『悪夢は醒めない』
本日行われた成歩堂の請け負う公判を傍聴する為に、僅かな時間を合間を縫って地裁へと訪れた。
今回は、とある財界人で――恐らく、局長息掛かりの者だと思う。
これに関しては特に不穏な動きもなく、こうして眺める成歩堂の姿にも余り変わった様子は見られない。
ただ、以前より疲労の色は否めぬ事が少し気掛かりであったので――こうして無理にでも時間を裂いては、その身を案じていたのだった。
(局長の監視下にある以上……命の保全は間違い無いのだが…)
あの『闇』が成歩堂を取り込んだ狙いが、御剣には未だ理解出来ずにいた。
『弁護士』という、検事側からすれば非常に厄介る存在を遭えて身内にと引き込んだ事。
また、一歩踏み違えば世論よりのバッシングすら充分有り得る。
それは彼が以前に―――神ノ木と共に『厳徒海慈』を出廷させ世間に闘いの爪痕を遺した事にあった。
あれは一時、かなりのスキャンダラスを産んだが、結果的にはその『闇』の力に捩伏せられた。
……今となっては過去の産物でしかないが。
しかしながら、これ新たに問題が発生してしまえば、次はその地位を揺るがす結果になる事は必須―――。
(一体……何故…)
局長は何を求めているのか。
あの椅子を己に与えると言ったその意図も、素直には歓喜出来ぬ状態である。
【服従シロ―――】
不意に、その一言がこだまする。
それを望む為故とは思えないが……それを出来ぬ自身は今、一刻も早く彼の呪縛を解き放つ事が先決である。
(成歩堂………)
誰ひとり失いたくないと彼は願い、闘っている。
それはとても、辛い事だ。
あの笑顔を取り戻す為にと―――御剣はその姿を見つめていた。
それを見る、同じ傍聴席にいた人物の視線には全く気付かぬままに―――。