RED MOON1
□服従させたい
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§2『服従させたい』
―――香る演技は
魅惑………
定例な政界の会食の宴に、また彼を連れてきた。
隣に座る彼は、見映えのイイ最上のアクセサリーとなって、椅子取りゲームのバッチ君タチの視線を一手に引き受けてくれている。
以前に連れてきた時には、そんな彼等の視線を背け酷く狼狽していたのだけれど。
新たな望みを抱きしめた彼は、その身に宿した昔の光を取り戻しつつあった。
(あぁ……実に、イイ)
何時によりも増してその仕草が艶を見せている。
今宵は特に―――その『味』を知る者達ばかりが雁首を揃えていたものだから、益々もって愉快な宴となっていた。
やはり彼は狭い籠で鳴くよりも、誰かに傷付けられて啼き、再び籠へと戻る方がイイようだ……。
「ロシアが中共を警戒するのは当然であり…中露は敵対して正常だと、私は思いますが」
そんな視線に対峙するかの様に、次々と挙げられる世界情勢の話題にも彼は実にスマートに、凛としたまま答え続ける。
自分は決して安くはナイ―――それを彼等に見せ付けているように。
「彼に追言するとさ……帝政ロシア時代の1900年黒竜江のロシア側の都市、ブラゴヴェシチェンスク市で入り込んだ支那人を数千人皆殺しにして死体を河に流した大虐殺事件があったよね。アノ国も中国ともに冷酷な現実主義者だって、そんな歴史が証明しているからねぇ……ま、彼等に理想主義は全く通じナイとボクは思うよ?」
ボクを見る切れ長の瞳が、軽く一礼する。
補足をしてアゲたのは、彼がボクの後継を担うと彼等に示す為だった。
キレイで賢く、その情火をも武器にする……ボクの持つ『毒手』にも似た そんな彼。
味わいたければ、彼にそのバッチの力を分け与えてしまえばイイ。
そして――――
「一度君とは…深く語り合いたいね、御剣くん」
「……恐れ入ります」
繰り返される、遠い過去のリバイバル。
深い傷だけが染み残る、その従順さをボクに捧げたまま、こんな今宵の宴は終わりを告げる――――。