RED MOON1
□Life
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―§1『Life』―
―――辛い朝だった。
痛む身体よりも、自身の力及ばぬ事を知った昨夜が重く心にのしかかって。
見知らぬ獣に犯された後、かなり長い時間を局長と重ねていた。
【逆らうツモリなんだ?……ナマイキに】
願いは『反逆』と形を変え、局長の怒りに触れた。それは叶わぬままその罪を償い―――沈むようにして意識を手放したのだった。
(どうすればいい……)
頭を巡るその言葉には何ひとつ進展がない。
己の無力さが腹立たしく唇を噛み締めては、声にもならぬ唸りを上げる。
【権力には……権力だ】
神ノ木が自らの『自由』と引き換えにした『権力』の証。
その切り札のジョーカーを背に打ち明けてきた、その想い……。
全てが不協和音のまま、混沌としてゆく。
解決策が見いだせない。
【…人間が人間であるが故に繰り返す「愚かさ」の証…それが『権力』】
高みを目指していた、あの若く弱かった自身に、そう東谷は言っていた。
自分はその『愚かさ』の一部を手にして漸く理解した。
そして今―――それを酷く所望している。
(力が……足りぬのだ)
長い間、自身の奥に潜ませていたものが燻りを見せ始める。
散乱した衣服を集め、痛みを堪えながら身支度を整えた。
自身に新たな光りが蘇る。
Short Hope―――小さくそう呟いて、御剣は部屋を後にした。
検事局へと到着したのは午前10時。
11時より、他検事達との小会議の予定がある為、御剣は執務室へと一旦帰還した。
昨日の一件もあり、室内の様子も気になってはいたのだが―――室内は既にクリーニングが施され、新たな火災放置機具が取付けられていた。
(やはり……監視はされ続ける、か―――)
机上から、昨日に纏め上げ了承された案件の束を手に、下階の第14会議室へと向かう。
ゆっくりと階段を降り、会議室手前の角に差し掛かった時……
「随分と早かったねぇ、御剣クン?」
「―――局長……」
隣の15会議室から見知らぬ客と共に退出した厳徒が、護衛のSPをバックに満面の笑みを見せ、御剣に声を掛けた。
「今日は休暇を取るかと思ってたのになァ……当てがハズレちゃったよ」