RED MOON1

□遠い朝
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― @4『遠い朝』 ―





車窓を流れる景色に、色とりどりのイルミネーションが流れは、過ぎてゆく。


(クリスマス―――もうその様な時期であるのか……)


心労が祟り体調に支障をきたしているらしい。
微かな眩暈を感じ、路肩にスープラを寄せ少し休息する事とした。

静かな車内の中、カチカチと刻み鳴るハザードの音。

今夜も睡眠補助薬の世話になるしかないであろうと思いながら、ふと見た視界の先に大きな十字架。

よくよく見ればその建物は教会で、ミサを終えた信者達が列を為し街のあちこちへと散ってゆく。



(もう…祈る事しか出来ぬのか―――?)



己の事であるならば、これ程までに苦悩はしなかった。

それがあの『彼』であるからこそ、軽い鬱にまで苛まれていたのだ。



光り輝く色彩の中に浮かぶ十字架を見つめ、いつしか御剣は両方を併せ祈っていた。



――何処におられるのか、どんな方なのか、存じませんが……神よ。

彼は、貴方の育てた運命というモミの木のひとつに吊り下げられた、ささやかな紙の星のようなもの。

風が立ち、枝が揺れれば為術もなく、震えるばかりの儚い星なのです。

どうか。

己の全てと引き換えに……どうか彼を、掬い上げて下さい。

この、運命から。

どうか、慈悲を―――



夜空に浮かぶ灰色のオリオンの下、スープラのハザード光もやがて…街のイルミネーションへと消え入った。






検事局へと帰還したのは、既に日付が変わった午前1時の事。


――Pi…PiPiPi………


夜間専用の入口より、薄暗い階段を昇ろうと一歩踏み出した時、懐の携帯が鳴り響いた。

この短いスパンの電子音は、メール受信。

開いた携帯の液晶に浮かぶ文字列に、『MerryChristmas』という件名だった。


自らが祈るべき十字架を持つ、あの姿。

御剣は、見上げた天井の隅に瞬く赤の光源に向かい深く腰を折り一礼すると、階段を登り出す。


失望感は無かった。


ただ、これで漸く―――僅かでも彼に手を差し延べる事が出来ると……微笑を浮かべただけで。

用意された先へと迷いなく向かって行ったのだった。
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