RED MOON1
□赤薔薇
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―*1『赤薔薇』―
検事局の裏口に、小さな花壇の植え込みがある。
狩魔クンが好きだというから、遠い昔、こんな場所に小さな花壇を造ったのだけれど。
巡り来る季節に咲き乱れるのは、真紅の薔薇。
でも、今もう季節は冬だから、薔薇は枯れてしまっている。
(また手入れしなくちゃイケナイのに……)
気難しい顔で手入れを施していたキミは今、此処にはいない。
隔離された広い籠の中で、本ばかり読んでいる。
寂しくなれば何時でも逢いには行けるけど……この花壇に咲く薔薇の手入れをするキミはもう、いない。
(薔薇……見たいなァ)
別に、薔薇そのものが好きな訳じゃない。
似て非なるモノだから、好きなだけで。
――懐から携帯を取り出し、馴染みの店にコールして花束を注文した。
地獄の業火に似た、赤薔薇を。
刺はそのままに、26本。
ああ……そうだ。
それを、従順な彼に届けさせよう。
あの美しい『赤』を、狩魔の正装で、さ――――。
「――承知致しました。では、後程に……」
内線の受話器を戻して、小さな溜息をつく。
内線の主は、局長からだった。花束を局長室まで届けるように…との勅命。
――但し、狩魔の正装で。
(来客があるのだろうか……)
花束を届けさせるついでに、見知らぬ誰かに顔見せをするのかも知れなかった。
政界や財界は、人材の巡りが非常に激しい。
ピラミッドの先端付近に腰を据える政財界の重鎮達に殆ど変化は見られない。
しかし、その下で、数少ない椅子を取り合う者達の入れ代わりというものは実に多かった。
(何時の世も変わりない、という事か…)
世間に表立つ格差なぞ、下層圏に於ける非常に些細なコミューンの一部分でしかない。
その遥か上層に巣くう『闇』を知れば知る程に……古より繰り返される『食物連鎖』を痛感してしまうのだ。
そして今。
自分を呼ぶ声は、それに絶望した透明なるフィアレス。
闇の全てを嘲笑う、黒き手の支配者だった。