RED MOON1
□傀儡。
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―#3『傀儡。』―
――蠕く何かに怯えていた。
思い出せない過去の幾つかが『悪夢』という形で、一時の安らぎを時折妨げる。
【傀儡ノ野蛮人ト
固唾飲ム吟遊詩人】
これは…一体何なのか。
蠕く何かに束縛されながら意識持たぬ身体が、ただ、従順に動く。
――カナエラレナイサ
哀しげに、蠕くものが呟く―――。
「ディベートの観点も大事にすべきではある……以上だ」
警視庁報道記者クラブからとあるコメントを求められ、局長代行として予め渡された文書を読み上げる。
土曜の夜間は毎週何らかの会食会があるらしく、局長不在となるスケジュールが組まれていた。
今週はたまたま報道関係筋からの要請と重なり…御剣が代行する形となったのである。
他には何の質問も無いらしく、記者達はお決まりの愛想笑いをしながら会釈をし…僅か15分程で、この場は終了してしまった。
(これは…直筆であるな……)
報道関係筋に伝えるコメントは、大概がゴーストライターによる薬にも毒にもならぬ文面。
しかし今日は直筆である事から、僅かな合間の内に纏め上げた文書だと解った。
流暢なペン字体は今も昔も変わらない。
あの黒き手から生まれ落ちる文書は何時も『完璧』なるものだった。
(確かにこれでは…質疑する隙なぞ無い…)
談話室を後にしながら、自室へと戻る廊下を擦れ違う『裏』のジャーナリストが数人。
一般記者とは幾分雰囲気が違う彼等は、御剣を見ると少しばかり蔑んだ様に笑みながら…やはり会釈をし、通り過ぎていった。
警察庁報道記者クラブに巣くう裏のジャーナリストらは、密かに横の連絡をもった厳徒のスパイ網だった。
ゾルゲ時代の謀略に似た動きを見せる彼等は、ハイエナのように鼻を利かせては、生々しい現場の片隅にも見掛ける事が屡ばある。
彼等もまた、あの手に操られる人間達。あの蔑む笑いに含まれる意図は解っている。
(帰還まで、2時間…か)
自室の扉を開けると、あの舶来の香りが鼻についた。
……途端に眉根が寄る。