RED MOON1

□銀糸
1ページ/6ページ

―#2『銀糸』―





現場に辿り着いた御剣は、待ってましたとばかりに駆け寄る糸鋸の相手から始まった。

また話がややこしくなるのでは、と糸鋸を目前にして眉根を寄せてしまったのだが。

その経緯と現場に残された物的証拠等――それを理論整然と報告され、逆に面食らってしまった。


(神ノ木の指揮は…『完璧』という事、か…)


糸鋸がこれ程までに流暢に経過報告出来たのは――その人材を的確に判断し、主要な配置を執り行えるゴドーの類い稀なる技だった。


【鳥には翼が、獣にゃ牙があるだろう?】


人材の得手不得手さえ見定めればいい…つまりそういった意味なのだが。

他人とのコミュニケーション自体が苦手な御剣には、中々身につかない。

いや、強いて言えば自身の最も不得手とする技術であったのだ。


「……ム、現在迄の状況は理解出来たが……」


その才能を発揮した当人の姿が無い事に気付き周囲を見渡してはみるが、暗闇に浮かび上がる筈の紅いラインすら見えない。


「あ!ゴドー検事ッスか?多分奧の車両マルロクハチに篭ったままッス……」


糸鋸は溜息をつきながら、擦れたコートから見事に真っ二つになった携帯を御剣に差し出す。


「ム……とりあえずこれは私から神ノ木へと渡しておく。大まかな検証は済んだ…貴様は鑑識と合流し、引き続き捜査を」

「了解ッス!」


ピッ、と敬礼して糸鋸は再び捜査員群がる現場へと走り去っていった。


(……全く…面倒な事だ……)


その残骸をジャケットにしまい込み、遥か先の路肩に縦列するパトカーへと足を向けた。

その理由が間違いなく己に有る事を知るが故に、足取りは重い。

…つまらぬ私情を絡めるなと制しても、それだけは決して引く事はなかった。

神ノ木の心情を理解出来ぬ訳ではない。
その想いを知らぬ訳でもない。


――ただ…
認める事が、出来ない。


法曹界という虚ろな夢の中で、数え切れない真実を知ってしまった今となっては……逃れる術さえ失くしているのだから。


(ム……)


車両番号『マルロクハチ』。その車内から浮かび上がる、紅い三本のラインとジプシーの灯……。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ