RED MOON1
□ほどけない糸
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―#1『ほどけない糸』―
褐色の獣は白い素肌を犯していた。
灰になるまで絡み合おうとする…そんな野蛮な朱い光。
切れ長の瞳は空ろなまま、白濁を弾き、最後の瞬間には溶け堕ちてしまいそうな光を見せていた。
(キミは本当に綺麗なコだねぇ……)
モニター越しに、そんな情事を眺め続けている。
それがとても美しいと感じていた。
闇に泳ぐ非情の炎。
それは、赤く聳える『孤高』―――。
彼の味を知り得る者達は、決まって蔑んだ視線を投げ掛ける。しかし、その包まれた赤の下眠る『白』を知るが故に欲しがる目付きでその姿を追う。
狩魔にとって彼は、中々よく出来たのアクセサリーだった。その赤い正装に見劣りしない華やかさを、彼自身が持ち得ていた。
……そんな昔をも想起させながら頬杖を付き、堕ち逝く限界の表情をズームアップしてみる。
淫麗に、切なげな。
モニター越しの御剣と厳徒の視線が合う。
――お許し下さい、と。
潤む瞳が声無く自分に乞いていた。
「うん…良く出来たね。キミはとてもイイコ、だよ……」
スクリーンへと指先を延ばし、その溢れる涙をなぞり上げて讃えると……それを知ったかの如く、彼は堕ちていったのだった。
「イラン特措法は明日期限切れだねぇ…」
『法律』に従えば、明日からインド洋上での海上自衛隊の燃料補給作戦は打ち止め、自衛隊は引き上げ準備に入る。
そんな政治的話題が飛び交う、定例会食会に厳徒は御剣を同席させていた。
御剣は狩魔家の正装を着込み、厳徒の隣で料理を口にする。
この様な席を持つ事も、政界との非常に重要なラインとなっている。
上品な口当たりのロゼを口に含みながら、
「法律を越えた『超法規的措置』により「延長」を首相は行政命令として、首相の権能で命令できる。ボクはどちらでもイイと思うけど、法曹界やら民衆やらは余りいいとは思わないみたいだねぇ」
政界と法曹界の僅かなズレを厳徒は上手く取り持っている。
時折マッチポンプを行い、戯れる事もしばしばあったが、『ぬらり鯰』と囁かれる厳徒の類い稀なる饒舌さは実に見事なものだった。