WHITE MOON
□親愛なる迷える子羊へ
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―#1『親愛なる
迷える子羊へ』―
「あーあ……また負けちゃった」
『完璧を善しとする』彼が、『恐怖のツッコミ男』の彼にだけは何故か負ける。
ただ何時もと同じように完璧なモノを集め、完璧な言葉で法廷へと立っているのに……何故か成歩堂にだけは負けてしまう事が多かった。
(いち、たす、いち……御剣くんは迷わず『に』と答えるけど…)
成歩堂の場合だと、それを『田』である等と答えるのだ。ああ、まるでトンチ勝負だね……と、高場からそんな裁きの庭を傍聴していた。
多分彼は、報告の際に矢鱈と馬鹿丁寧な謝罪をし、『どのような処罰も受ける所存です』と潔く言う筈だ。
言い訳なぞ聞いた事は一度もない。
(その違いだと思うんだけどなァ……負けるのは)
捻りが足りないというか……余りにも一本気でツマラナイ時もある。
それはあの『狩魔』も同じ事であった。
(でもソコがカワイイんだけどねぇ……)
彼は『オスワリ』も『お手』も『待て』も出来る従順な賢い犬だった。
とてもカワイイから、ついオスワリをして待つ後ろ頭なぞを見ると悪戯したくなるのだ。
どうせ後から謝罪の為に姿を現す。
その時までに、何か愉快な『罰』を考えておこうと―――厳徒は独りほくそ笑み、その部屋を後にした。
―――その一方。
今日の法廷に於いて、敗北した御剣は未だ検事側控室に留まっていた。
完璧に勝利出来ると思い臨んだ、今回の裁きの庭。
それを土壇場で逆転されてしまい……何故その矛盾を見抜けなかったのかと、自分自身のミスをひたすら悔念していた。
(君は何故、その綻びを見つけられる…?)
相手が成歩堂だからといって手加減なぞ一切してはいなかった。
それが真逆であったからこそ……こうして思い悩んでいたのだ。
完璧な証拠品。
完璧な証言者。
完璧な………
(私には……何が足りないのだろうか……)
染み付いた慣習のせいかと……独りごちて。
まだ、新人の検事だった頃。
幾度となく足りない物を埋めてきたのは、『偽装』という『完璧』なものだった。