PINK CAT

□約束は守るものでなく、するだけのモノ
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ボクの饒舌に
 堕ちて、ゆく
  キミは哀れな
   蒼い、砂時計……





―『約束は
  守るものでなく、
  するだけのモノ』―





何をされたのか、わからなかった。

日曜の朝の日溜まりの中を、僕は柔らかな羽根に包まれて何時もの様に目覚めた。

天国の出口に凭れ、長すぎた眠りを破って。
だけど……下半身が鉛の様に重い。

何時ものように、何時もの日曜の朝だった。


(僕は…確か………)


昨夜は少し早く、クライアントが迎えに来て。
あの車内で、シャンパンを飲んだ――――

そこまでは、覚えている…。

しかしその先が、何故か記憶に無い。


(……でもどうせまた……何かされたんだ…)


僕にはどうやら、嫌な記憶には鍵を掛けるという素晴らしい機能が生れつき備わっているらしい。
それを、希少で大事な思い出を蘇らせては、何とかそれを心の奥深く眠らせるらしい。

夏の夕暮れの様にそっと教えて貰った言葉や、重ねた季節の全てにあった、あの、優しさに縋る。
それは単に僕の悪い癖……なのだけれど。


(ゴドーさん……)


今では、呪文のようになってしまった彼の名前。

雑踏の街角で様々な想いを溢れさせながら、『約束』を交わした時間を待っていたあの頃。

追い掛けていた、あの広い背中や。

例え身代わりでも、あの胸に抱いて貰えるならば…と、安っぽい綺麗事を並べ真似て。


そんな子供滋味た眩しさも今は、思い出を想起させる為の魔法の言葉になってしまっている……。


(ゴドーさん……)


思わず抱き締めた羽根にすらチクリと痛む、あのリングが益々彼を遠ざけてしまっている。


もう、恐らくは。
あんな夜を越える事は出来ない。

あの夜の…アスファルトを叩く無言の雨音は僕の胸深くにだけ響かせて…独り、あの嵐の彼方へと進むだけ。

一秒も永遠も全て、同じに見える僕の瞳。知らない顔の僕がいつも僕を見つめている、そんな日曜の憂鬱な朝……。


(ゴドー……さん…)


宛てもなく、意味もなく、毎日が通り過ぎて。
夢もなく、音もなく……夜はそっと逃げていったのだった。


重く痛む、こんな身体だけを残して――――。
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