PINK CAT
□爪切り
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時計の針が
重なり合って
天を指差す時刻
ガラスの窓が
歪んだ僕を
虚ろに、映す――――
―:1『爪切り』―
「………居ない?」
『はい…事務所にも、付近にもおりません。自宅周辺区域に現在数名…そちらからの連絡待ちです―――』
「ふぅん……じゃあ、P4でイイ……」
『―――了解…』
電波の先の、その『異変』。
迎えに出したSPからの連絡に、少し血が湧き立つ思いがした。
今夜は、綺麗な『蝶』を用意してあげていた。
中々愉しめるコレはきっと、その蒼にだって羽根を震わせた筈なのに。
カーニバルを待つ少年のように、それは楽しみにしていたのだけれど……
(キミは待てずに、ココを飛び出した――)
体内を流れるボクの、少し煮えたざわめく血は、少しゾクゾクとした奮いを齎してくれた。
それは彼の…完全なる、契約違反―――。
(飽きないねぇ……ボクの蒼空は――――実に、イイ……)
彼はその臆病な丸い瞳の奥に、意外に鋭い爪を隠し持っていたらしい。
ボクがそれを見逃していた事で、こんな事態を引き起こしてくれたのだ。
その、『追い詰めるスリル』と『捕獲後の処罰』 に空想の域は広がる。
(さぁ……キミの用意してくれたゲーム、愉しませてもらおうかな…?)
眼鏡を直し、少し残忍に微笑んで―――逃げる、蒼の行方を脳裏で追う。
まだ『検事』と呼ばれていた頃の、ボクが1番スキだった仕事。
逃げる先の先を追えば、シノプスの原子と分子が頂上に至り、静かに動き始めて吹き溜まりを超える。
(死ヌ、勇気ハ、ナイ―――)
彼はとても半端で臆病なコ、だから。
虚ろな瞳をして、宛もなく、さ迷っているハズ……。
(背徳ノ、片隅デ、夢ヲ見ル――――)
こんなに寒い、夜に。
とても、カワイソウだ。
マッチのひとつも、擦っていたらイイと思う。
あの、物語のように……
(バカミタイ、だね――――)
温かい光を求める為に、 その灯が点る場所に向かい、キミは歩いている。
ああ……でもね?
その灯を何本擦ったって、願いゴトは、叶わない―――――。
ボクは再び携帯を取り出して、忠実なドーベルマン達に指令のメールを送った。
【Access『E2:X4』――捕獲】
…簡単に掴まらなければイイと思うのだけれど。
でも、寒い夜、だから。
カワイソウだったし。
ボクは特別に時計の針を止め、ココで待ってあげる事に、した―――――。