PINK CAT
□淫らな従順
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―#7『淫らな従順』―
(――ついこの間までは)
今日の仕事を終え帰宅し、もうすぐ明日となってしまう時間に、少し熱目のシャワーを浴びていた。
(今日は26日だから…そろそろ支払いとかの引き落としだな…)
ふと、そんな事を思って……慣習というものは中々抜けてはくれないな、と少しだけ…今の自分を笑った。
家計簿を見て悩む主婦のように、通帳とやり繰りに奮闘していた。
離婚調停などの小さな仕事も無駄には出来なくて、半ば万屋のような…。
しかし、あの人の顧問弁護士となってからは、そんな生活自体が一変した。
毎月振込まれる破格値の顧問料や紹介されて来たという依頼人の数の多さに。
…一日一日がとても早い。
時間を気にしながら、毎日こんなにも仕事を熟す事になるなんて夢にも思わなかった。
疲れて帰る自宅までの暗闇。睡眠の為だけに帰るような部屋。
ゆっくりと湯舟に浸かる気にもなれず、何時もシャワーで済ませて眠るだけ。
…そしてまた朝がきては、疲れ果て眠る夜が訪れ。
それを繰り返して――また、土曜日がやってくる。
(……痛っ)
ボディーソープの泡に滲みる白金のボディピアスの傷が、今夜も気を滅入らせた。
(……シルバーだったら…よかったな……)
そんな事をふと考えてしまい……流石にそれは違うと、小さく首を振った。
こんな事になっても、なお――彼の事を思い出しては、少しでも近付きたいと想っている自分がいた。
白金が水滴にキラリと光る。
僕の身体の一部になってしまった、こんな物までも…違う物質だったという皮肉。
(ゴドーさん……)
その愛を渇望しながら生活のために奮闘していた。
それは余りにも遠くなってしまった過去という名の日常。
(僕は…どうなってしまうんだろう…)
あんなにも楽しみだった週末が、こんなにも憂鬱なもとなってしまった。
――土曜の夜に繰り返される、あの営みの中。
黒い掌に玩ばれて。
褐色の胸の中に抱かれた、あの夜に縋りながら。
僕は、なすがまま…嘆きの声を上げるしかない……。