PINK CAT
□淫蕩であどけない動物
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―#5『淫蕩で
あどけない動物』―
窓の外は、紅葉した葉が北向きの風にのってカサカサと揺れている。
地裁の資料室で目当ての資料を写し、黄昏れ近いそんな窓の先をボンヤリ眺めていた。
『専属顧問弁護士』としてあんな形になってから、厳徒局長の口利きらしい仕事が次々と舞い込んで来る。
所詮、世の中なんてこんなものなんだろうかと…少しばかり憂鬱にもなって。
その顔の広さだとか、利権や権力が絡む事で、これ程まで身辺に変化があるとは思わなかった。
顧問弁護士料として振り込まれてくる金額は破格値。それに見合った仕事をしているのならばともかく…
(あんな事……だぞ)
毎週土曜の3時間は懇談という名を借りた、性を営む時間と成り果てていた。
これでは本当に『愛人契約』同然だと…溜息までも重くて…。
(――ゴドーさん…)
――ふと。
小さな夏の記憶が蘇る。
あの狭い清掃用具室内の5分間の甘い思い出。
ちょっぴり泣いたけれど、来年また此処で二人、花火を観る約束をした。
仕事が少なくて、やり繰りに四苦八苦していたけれど……その頃の方が幸せだったと、やっぱり溜息をついてしまう。
(逢いたいな……)
そう思ってしまうと、居てもたってもいられなくなって。
写し取ったノートを鞄に詰め込んで、そそくさと部屋を後にした。
まだ5時前だから大丈夫と踏んでは来たものの…。
よくよく考えてみれば、検事局に在中しているかも分からない状態だ。
以前は、そんな事もお構いなしに不在ならば回れ右、といった程度だった。
しかし……
此処には、あの『厳徒海慈』が居る。
これで御剣すら不在だとして。
あの黒い手に見つかってしまい、また妙な事をされるのでは、と不安になってしまうのだ。
(やっぱり…コールしてみよう…)
エントランスの真ん中で立ち止まり、コールしようと懐から携帯を取り出した時、だった。