PINK CAT
□深海
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―#3『深海』―
(次回で決着だな…)
今日の法廷を終え、依頼人と次回公判の打ち合わせを済ませた成歩堂は、事務所へと戻る途中だった。
うーん、と背伸びをしながら地裁の階段を降りて行くと、下階の廊下端に赤いスーツの裾がチラリと見えた。
(赤だから解りやすいよなぁ…御剣)
階段を小走りに駆け降りて、その裾が見え隠れする角に足を踏み入れたのだが……。
「やぁ!泳いでる?」
「ム…?成歩堂…」
「!!…こ…こんにちわ…」
確かにそれは御剣だったが…その奥にはSPを従えた厳徒海慈も存在していたのだった。
その姿を見た途端、一瞬身が竦んでしまい表情が固くなってしまう。
「では、その予定にて執り行います…では」
「ン!よろしくね!」
御剣は深く一礼し、固まる成歩堂の傍へ身を寄せた。
それを何時もと同じ満面の笑みは眺め、何かを見透かす様な視線を投げ掛けている。
「なるほどちゃんの法廷、見てたよ。中々イイねぇ…とっても上手だったよ?」
「ど…どうも……」
「その調子で、頑張ってね色々と!」
じゃあね、と黒い掌を振りながら厳徒はSPと共にその場を去っていった。
再度一礼する御剣の脇で、成歩堂は小さな安堵の溜息を漏らす……。
「私は第四法廷にいたのだ…君は第三だったろう?声が聞こえた」
「え…?そんなに大声だった??」
「うム…入廷する際に『異義あり』と…。君は集中すると、かなり声のボリュームが上がるのだ」
「うぅ…知らなかったな、それ…」
そんな普段の会話のお蔭で、漸く緊張の糸は緩んだ。フ……と笑う御剣に照れ笑いを返して、笑顔も戻る。
「カフェで一席と言いたい所なのだが、少々急ぎの案件を局長から勅命されたのでな…」
「相変わらず忙しいんだなぁ、御剣は」
「週末の夕刻迄と指定されたのだ。…もし君が良ければ、その後に夕食を共にしないかね?」
勿論!……と言いかけて、慌てて言葉を噛み殺す成歩堂。
【――また、来週にね】
『専属』という名の『契約』。御剣が提示した時間は、それに従事する刻だった。