PINK CAT
□目線の正義
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―#1『目線の正義』―
その、十字架の様な胸元をボンヤリと見ていた。
もし、この人がクリスチャンであったなら……こんな関係は神への冒涜だから、今直ぐ止めるべきだと言えるかもしれないと考えていた。
「どうしたのかな、なるほどちゃん?ココ、気に入らなかったかなァ?」
「い…いえ……そんな事はないんですけど……」
皿に盛られた、デザートのプチガトーを口に運びながら……やはり馴れぬこの雰囲気に味の良し悪しすら解らずにいた。
――毎週土曜日。夜の7時から3時間。
ホテルの一室で食事を摂りながら会談をする契約となっていた。
(『専属顧問弁護士』って聞こえはいいんだけど……)
その『3時間』には決まって『性的嫌がらせ』が組み込まれていたものだから、益々もって食欲なぞ減衰してしまう。
(『拉致』だって『援助交際』だって立派な犯罪なんだぞ……)
『専属顧問弁護士契約』はどちらかと言えば、『専属援助交際契約』に近く、いやいや…僕は成人なんだから『専属愛人契約』と言うのが正しいのか?、と考えて……
(馬鹿か僕は!愛人って何だよ!!アイジンって!!!)
と、マイセルフなツッコミを繰り返して……それでも『契約破棄します!』とは言えない自分に深い溜息をついていた……。
「お腹いっぱいになったかな?人間の欲は『食』が第一だからねぇ。お腹を満たすコトは幸せのひとつなんだよ!」
「そ…そうですね…全く……」
いや……全くなのは自身の勇気の無さであって。
愛人、という言葉が出たのは恐らくはゴドーの……あの夜に聞いた生い立ちの話から想起したものだった。
(ゴドーさん……)
今どこで、何をしているんだろう…と想った。
彼がもし、こんな理不尽な事をしている自分を見たら嫌われてしまうんじゃないかとか。
いや…もしかすると、何かのヒーローみたいに突然現れて…
【助けに来たぜ!】
などと派手な登場をして、SPを蹴散らし、手を取って連れ出してくれるかな?……と。
最後にはそんなトリップ気味な妄想にまで発展させて。
少しでもこの現実から逃避したいと、自身を宥めすかすしかなかった。