BLUE CAT

□ラ・トラヴィアータ
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「やあ!朝からゴメンね」

「あ、おおおはようござい……」

「でね?早速なんだケド、コレとコレ。うまぁく丸めてポイ、してくれるかな?」

「⁇……あのぅ、これを『捨てる』ってことですか?」

「ン!正確に言うと『破棄』かなァ……処分でもイイ」

「分かりました、お預かりします。じゃあ僕はこれで失礼し……」

「ウン、じゃあ仕事しよう!一緒にさ」

「……え゛?」

「折角ココに来たんだし───スグ帰れるとか思ってないよねぇ……なるほどちゃん?」




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【ラ・トラヴィアータ】
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(うぅ……まだ水曜日じゃないか)


普段通りに出勤して事務所のドアを開いた途端、突然卓上の固定電話が鳴り響き、慌てて受話器を取った事が運のツキで。

もしもし、と応える隙もなく『やあ!今朝も元気に泳いでる?』と一方的な挨拶が聞こえ、挨拶を返す隙も無く『実はチョッピリ用事があってねぇ』と立て続けに用件を話し、『じゃあ迎えに行かせるからヨロシクね!』と勝手に了承された途端ドアが開き、たちまち黒服のSPに拉致された……という経緯。

最近は固定電話にも何かと物騒な話題が多いから、ナンバーディスプレイ機能搭載の新しいものに変えたばかりだった 。
これなら誰からのコールなのかも分かるし、取らずに無視を決め込む事だって出来る筈。

……なのに、こんな状況になっている。
早朝で起きがけの回らない頭は、そんな予防線をすっかり忘れてしまっていたのだ。

尤も、最近じゃ携帯へ直にコールされる事ばかりだったから、まさかの猫騙し的な拉致だとは夢にも思わなかった訳で…………


「テーブルで打ちづらいならさ、ボクの机で一緒にやってもイイよ?」

「……あ、いやいやいや!だ、大丈夫……デス」

「アハハ!じゃあソレは次に来た時のオタノシミに、ね?」


そんな経緯と自分反省会を遮断して、更に次回予告までもサラッと口にして、陽気に笑うクライアント。
結局僕は早朝拉致から局長室に護送されて、軟禁状態となっている。

幾ら個人的な専属顧問弁護士だからとはいえ、クライアントは僕と相対する側の人間だ。
そんな敵の本陣で、しかも此処は局長室───
横並んで互いが互いの仕事をしている奇妙な光景。

矢鱈と大きな応接用のソファーなのに、何故か時折触れ合う膝と膝。
さり気なく身体をずらして距離を置くのだけれど、少し経つとまた膝が触れ始めるという、そんな状況だった。


「ああ、ソコさ。捺印じゃなくて拇印表記にしてくれる?後々面倒になるからさ」

「あ、ハイ……」

「ン、イイね!じゃあ、続けて」


黒革の手がポンポンと僕の太腿を叩く。
こうして他愛もなく触れられる度に反応してしまい、愛想笑いを浮かべながら身体をまた少しずらしていた。

毎週土曜日の会談……最近では性的な意味合いをも含まれつつある会食の場の記憶。
それが脳裏を掠めてしまうと、下手に機嫌を損ねたら何をされるか分からないという恐怖心。

止めてくださいと言ったって無駄な事も知っているから、地雷を踏まないような自己主張をする以外に方法は無かった。


「If “ifs” and “ands”♪Were pots and pans ♫There would be no need for tinker!」

「???……あのぅ」

「『もしも』と『そして』。どっちがイイ、なるほどちゃん?」


またもや距離を縮めながら、万年筆をタクト代わりにクライアントは突然歌い出す。
未だに慣れない不可思議な質問と、下から覗き上げるようにして近付く満面の笑み。

これには流石に驚いて、余裕を無くした僕は真横に大きく仰け反ってしまう。
しまった!と思った時にはもう遅い、土曜日と同じ何時ものパターンだった。



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