BLUE CAT
□何よりも崇高なる蒼い擬態
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誰もがこの競争社会に
生まれて来るけれど
『勝者』が『敗者』を
生むのなら
『勝者』などいる筈はない――――
#1『何よりも崇高なる
蒼い擬態』
桜が咲き乱れる春の訪れに、昨年の今頃をボンヤリと思い出しては、少し途方に暮れていた。
本来なら今頃は、花見に心を弾ませながら、ゴドーさんや御剣を誘う計画を立てていたと思う。
ウグイスよりも閑古鳥が威張り散らしていた毎春―――僅か一年前の事なのに、それが余りにも遠い過去のようだった。
公園の陽だまりに腰を下ろして、僕は老人のように過ぎ去った日々を思い出しては溜息ばかりをついている。
「あの頃は良かったなぁ………」
これじゃ『春』じゃなくて『人生の晩秋』じゃないかと、笑えないツッコミを心中呟いた。
サワサワと揺れる桜の枝先を眺めた後、手にした手帳に目を落とすけれど、開いたページには書きなぐられた予定の山。
そして―――土曜の夜の空白。
気付けば、僕がクライアントの『専属顧問弁護士』になってから……外出といえば大底僕はあの人と共に過ごしていた。
こんな僕の何がいいのか解らないけれど。
『お気に入り』と言われ所有され続ける内に自分にとって、その存在が実に身近な一部となっている事を感じていたのだった。
【嫌じゃない】―――僕は確かにそう思ってしまった。
あの『性的行為』に対してのみの思いならば……それは単なる場の流れだっと、自分自身をごまかす事が出来た。
なのに―――
(寂しい、って何だよ…………)
最近になって、あの部屋にとり残される度に、何とも言えない孤独感に苛まれ続けていたのだった。
あのベットは広すぎるからだと、そうは思ってはみても…ほんの少し残っている隣の温もりに寂しさを感じてしまう。
日曜の朝には、気怠さと哀しみしか無かった筈だった。
なのに今は『寂しい』というおかしな感情が、僕をこんな風に悩ませ続けている―――。
(桜は毎年変わらないのになぁ……)
そんな何かが変わってゆく事に、僕は酷く怯えている。
変わらないものなど一つも無いと……そう教えてくれたのは誰だったかと独り言を呟いて、僕は事務所へと戻っていった。