RED MOON1
□捕食者
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「じゃ、コレね。それでイイよ、御剣クン」
「……有難うございます。」
今日熟した案件分配の承諾印を貰い受け、一礼した時だった。
椅子の革の軋む音と低い笑い声が重なり合う。
「なるほどちゃん、随分と頑張ってるようだねぇ……相手、してあげればイイのに」
「いえ……私が携わる範囲の事件ではないと判断したのですが…」
「そう?なるほどちゃんに逢える折角の機会だったのにねぇ……」
深い眼光に、少し肌寒い物を感じてしまい僅かに視線を逸らす。
奥底までを覗き込むようなそれは、局長が何かを見透かした時………。
「彼は、とても希少価値のある人物だよ……ボクが今1番気になるコ、だ―――」
「―――!」
「この前の…何かの会合で、チョロッと彼のコトを話題にしたんだケド――こんなに早く効果があるなんて予想外だったなァ………」
拳にこめかみを乗せ、薄く笑う口元。
隠し持っていた不安を直視され、嘲笑う支配者に自分は慈悲を懇願するしかない。
逆らう事は、出来ぬのだから――――。
「…成歩堂には……彼には………」
「深入りさせたくナイ……そう、願ってるんだ?」
「……厳徒局長…どうか……」
彼に嵐が近付いている……それをただ指をくわえて見過ごすなぞ、自分には出来る筈が無い。
恐らくその代償は、自身を切り刻む結果になると解っていた。
(それでも………)
それでも、善い。
彼を護る故の犠牲ならば 幾らでも、自身は血を流す。
イエス・キリストが人類全ての罪を請け、十字架に身を投じたように。
目前にある、その十字架に哀願する………。
「一度見捨てた猫ちゃんをキミは今更惜しいって言うケド……彼はソレを望んでるの?――チガウと知っていて、ナゼなんだろう?」
立ち上がる姿を目で追いながら、余りにも核心を突く言葉に酷く……酷く胸が痛む。
彼に対する『贖罪』と言いかけ、言葉を詰まらせる。
(ただ……ただ、私は……)
深く、彼を想っている。ただ、それだけの事……なのだ。
「じゃあ、逆に聞こうか?何故、ボクに係わらせたくナイと、望む……?」
「ン………ッ……」
懐に忍び込む手に、そんな胸奥の痛みすら握り潰されても。
その応えを、示す。