RED MOON1
□捕食者
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傷んだ心にさえ流れる涙
輝くあの瞳にさえ
写らぬものは、何――?
―@1『捕食者』―
【―――異議あり!!】
第4法廷から聞こえるその音量高い声を聞き、御剣は小さく微笑む。
自身が受け持った案件――第3法廷で行われていた裁判は無事閉廷。勿論、微塵の隙も無い完璧なる勝利だった。
(元気そうで何よりだ……成歩堂…)
以前は頻繁に検事局に訪れ、受付嬢にすら顔なじみとなってしまった彼。
それが、ここ数ヶ月前程からパタリと姿を現わさなくなっていたのだ。
不審に思ったので、密かに糸鋸を使い…さりげなくリサーチを試みたのだが、
[仕事が忙しいみたいッス!夜遅くまで大変みたいッスよ!]
……と。
あの事務所にとっては久々に多数の仕事が舞い込んでいる様子。
後に、案件振り分けの際、5〜6件程の書類の中に『成歩堂 龍一』と彼の名が載っていた。
何れも小さな傷害事件等の、比較的軽度なものであったから自身が携わる件でも無かろうと、亜内検事レベルでの彼等へと振り分けていたのだった。
(ただ……少し…)
少しだけ、気になる事があった。
成歩堂が携わるそれらに聞き覚えの有る財界人の名前が多い事に気付いたのだ。
奇抜な事件に携わった彼 をマスメディア達が取り上げた事もあったのだが………それが仮に理由だとしても、これ程までに偶然が重なるものなのだろうかと。
些か、気掛かりであったのだ。
(……気に病み過ぎか)
しかしながら、成歩堂の実力は自分自身も認める所であるのだし…彼が弁護士として世間に名を馳せるのならば、それは寧ろ喜ばしいと、思っている。
(何か不安であるのなら、尋ね来る筈でもあるのだし……)
この法曹界に生きるのならば、彼をその深い闇にだけは巻き添えにさせぬよう……注意を怠らぬ様にはしている。
その闇を知る自身だからこそ、氷山の一角程でもあのぬかるみに一度足を着けてしまった彼を護ると誓ったのだ。
それは単なる『一塊の不安』なだけであると……御剣は己を宥めすかす。
しかしそれが――全ての始まりであった事は、この時には知るよしも無かった………。