RED MOON1

□その指が解けたら
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(…ああ、とっても愉快だよ……神ノ木ちゃん)


黒革の指は、そのスイッチをオフにしてソレを懐に仕舞い込む。

厳徒は高見から、その一部始終を眺めていたのだった。


御剣が醜態を曝す前に、上手くその瞬間を見計らうつもりが…少しばかりソレに魅入ってしまったせいで、…実に愉快な事態と変貌した。


(赤い丘を過ぎる雲…かな?)


クスリ…と少しだけ笑って、厳徒は御剣のあの表情を思い浮かべる。


壊れそうな瞳が自分を見上げる姿は、まるで溺れた魚のようだった。

掬い上げて、下さいと。
そう聞こえた様な気がして…。

沢山の雑魚達がざわめく中、身体を癒す術もなくて、縋る様にこちらを仰ぎ見ていた。

…その従順さは、淫を与え傷付けば傷付く程更に艶を増す。


(赤は青を、青は白を、白は赤を求めてゆく)


足りない色で塗りつぶす、それぞれの塗り絵のような夢。


(でも『黒』は全てが還る場所なんだよ?)



『死』にすら安らぎを得られないから、漆黒を纏い、こんな戯れを繰り返す。

――人間を創造するという快楽の為に。


(じゃ…掬い上げに行こう、キミが溺れる前に)


あの最後の瞳を脳裏に写し込んで――厳徒は後ろ手を組み、部屋を後にした。






御剣は控室のソファに凭れたまま、残された腕の痛みに眉根を寄せた。


【――余り哀しませないでくれ……ボウヤ】


それだけを言い残して、ゴドーは法廷へと向かって行った。

例えそれを追った所で、裁判長が自分を検事側として再出廷を認めるとはまず考えられない。


(……悔しい)


携わった法廷を放棄させられた揚句、余りにもぶざまな退廷劇。

御剣にとって、プライドを傷付けられるという侮辱は、腕に残された痣よりも痛く…辛い。

そして、ゴドーが残した言葉に含みが有る事にも気付いていた。


(渇望なぞ……しない)


その哀れみが酷く、胸苦しくて。それは蔑みよりもなお、深々と心へ突き刺さる。


(希望なぞ………)


もし。
その繋がる先の糸が……解けたら―――?
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