BLUE CAT

□止めてください
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「じゃあ、ナゾナゾ第三問!目は四、鼻は九、口は三、だとしたら───耳はいくつ?」

「ゔ……目が四で鼻は九で口は三……?」

「コレは今考えたんだよ?なるほどちゃんの為に」


問題を出し終えた局長さんは、後ろに手を組んで相変わらずニッコリと僕を眺めているけれど、何だか今回も雰囲気が違う。
陽気な雰囲気の一問目、威厳を感じた二問目───この三問目には素のままというか、妙なクリアさを感じていた。

僕は人の感情を肌で感じ取る事が多いから、雰囲気に飲まれ易くて、つい余計な事を考えてしまう。
今は答えを考えなくてはいけない訳で……実際考えてはみたけれど、法則性も見て取れない数字だし、文章の中にズバリな答えがある訳でも無い。

結局は現実逃避の自己分析じゃないか!とツッコミを入れ、パターンから言ってそろそろ替え歌が始まる頃だと焦りを感じた時だった。
何の前触れも無しに局長さんの脚が最後の一歩を踏み出して、壁みたいに立ち塞がる。

流石にギョッとして少し後退る僕の前で、今度は人差し指をタクト代わりに局長さんが歌い出した。


「As white as milk,And not milk.
As green as grass,And not grass.
 As red as blood,And not blood.
 As black as soot,And not soot───」

「あのぅ……僕まだ答えてないんですが……」

「答えられるように見えなかったから、先に来ちゃったよ、なるほどちゃん」

「いやいや!でも答えは一応……」

「歌の答えはキイチゴ、なるほどちゃんの答えはヘビイチゴってトコかなァ……うん!時間的にもソレでイイかな」

「ゔぅ……もう三問目とか全然関係無………ぃ?」

「ミルクのように白いけどミルクじゃない、草のように青いけど草じゃナイ……キミの部分はココまで、なんだ」


左右に振られていた人差し指の先が、僕の耳に触れる。
冷たい革の感触に身体が震え、ゴクリと飲む生唾の音。

つい数秒前までのコメディから、一気にホラー化しているこの状況。
目が四で鼻は九で口は三、足したら12です!とか、全く意味不明な答えばかりが頭の中でぐるぐる回っている。


(な、ななな……何で急に……!)


指先が耳の裏をゆるゆると撫で始め、それでも蛇に睨まれた蛙状態な僕は、皮膚の毛穴ばかりをプツプツと浮き立たす。
冷汗も出ないほど硬直する中で、瞳孔が大きく見開いた局長さんの顔がゆっくりと近付いて。

鼻先擦れ擦れで止まった其れに呼吸すら忘れ、心音が躰の中を駆け巡る。
まるで捕食間際の生き物になったような感覚───朧橋から落ちた時よりも遥かに酷い絶望感が長く、長く続いていたけれど…………


「目は視覚、鼻は嗅覚、口は味覚……じゃあ耳は、いくつ?」

「…………ぇ?」


耳元で囁かれた言葉は突然振り出しに戻り、なぞなぞ三問目になっていた。
疑問符と共に忘れていた呼吸を取り戻し、取り込んだ酸素で脳が急に動き出す。

四覚・九覚・三覚───耳は聴覚で……


「ち、ちちちちょう!兆です!!!」

「ウン、せいかーい!ヨクデキマシタ!!」

「ぉ⁈ウブぶぶっ!!」


今更ながらに後退し慌てて答えを叫んでみたけれど至近距離は変わらずで、正解を機に局長さんは両腕で僕の身体を抱き締めて、今度は左右にユサユサと小刻みに揺れ動く。

抱擁のようで抱擁じゃない、万力みたいなプロレス技にギブギブギブ!と冗談色の腕を叩く。
すると万力から捕獲にパワーダウンした片方の腕が、今度は何故か腰の辺りに移動して。


「うわ、ちょ……ちょ、局長さん!止めてください!!」

「アハハ!なるほどちゃんって色々とまぁるいねぇ!大きなテディ・ベアみたいだよ?」


黒革の手がさわさわ、サワサワと撫で回し始めたのだ。
左右には逃げられないし、前に逃げたら局長さんと密着するし、腰を引いたらお尻を掴んで下さい的な状態になってしまう。


「あの!ちょ、とりあえず!離して下さい局長さん!!」

「ウン、やわらかいねぇ!想像以上の抱き心地だし」

「く、くすぐったいです!!これ以上はセクハラですよ局長さん!」

「中身はもっと柔らかそうだよねぇ……」

「え?中身って⁈ちょ!、え、エエェ⁈あはははははは!!」

「局長サン、って呼び方がイヤだなァ……じゃあ、ラストミステリー!」


散々お触りされた次は脇腹を擽られるという事態に見舞われ、更にはラストミステリーとか言ってる始末。
なぞなぞが何故に不思議発見的なバラエティーになるんだと。

少し痛い、でもくすぐったいという微妙な力加減に悶えながら、そのラストミステリーに答える羽目になったのだった。




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