BLUE CAT

□止めてください
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「それじゃあ、サックリとナゾナゾ第二問!」

「よ、よーし!」


普通のなぞなぞだと分かったし、同じ轍は踏まないぞと気合いを入れる。
いい大人が二人朝から密室でなぞなぞ対決とかツッコミを入れた時点で負けだ。

とにかく、これ以上局長さんのペースに嵌ってしまわないように気を付けないといけない。
……既に片足が嵌っているような気はするけれども。


「あるアパートの一室で女が一人殺されていた。鑑識の報告は以下の通り───」

「……え?あれ?なぞなぞは……」

「@女は左手に睡眠薬の空き瓶を握っていた。
A女はベッドの上で冷たくなっていた。
Bドアも窓もすべて閉まっていた。
C遺書はなかった。
さてこの女の死因は自殺か、それとも他殺?」

「ゔぅ……何で推理問題になってるんだ……」


なぞなぞに頭を切り替えた途端、突然方向転換した問題に重い汗をかく。
嘘付きは何とかの始まりなのに……とか思いながらも、そうは絶対口に出せない雰囲気に僕は生唾を飲み込んだ。

問題を出し始めた途端、局長さんの表情が真顔になっていたからだ。
以前に見たことのある無感情な恐い顔ではなくて、立場的な威厳を出したという感じ。

これは僕を試しているのかもしれない───唐突なシリアス展開に僕も少し真顔になって、鑑識の報告について考察を始めようとした。
……の、だけれど。


「あめアメ♩ふれフレ♪かあさんが〜♩」

「え"…⁇また替え歌……」

「蛇の目で強盗♩ウレシイな〜♪」

「ちょ…エエエ!傘じゃなくて強盗⁈」

「カネ出せ♩さもなきゃ♪ぶっコロス♫」

「かあさーーん!!!」


突然の掌返しで陽気な笑顔の局長さんがまたもや歌い始め、しかも替え歌。
真顔のシリアス展開にすっかり騙された僕は、冷や汗と油汗の混合発汗で肌がむき卵みたいにツルンとなった。

そんな僕を眺めながら、歌を終えた局長さんが満面の笑みを浮かべ掌を向ける。
多分答えを聞いているのだろうけれど、考える間も無くしっかりと罠に嵌ったのだから当然二択な訳で───


「じ、自殺……かなぁ?と───」

「……ふぅん。理由は?」

「いや、遺書が無いだけですし……密室で睡眠薬でベッドの上と言うだけなら、司法解剖の結果待ちという事で自……」

「アハハ!真面目に考えたんだねぇ、なるほどちゃん!そんな所が実にカワイイんだケド、始めからボクは言ってたよね?『ナゾナゾ』、って」


先程より大きな一歩を踏み込んで、局長さんは僕との距離を更に縮める。
何かのコマーシャルみたいな笑顔を前に、僕はもう一度良く考えてみた。

真面目に考えなくていい、只のなぞなぞ。
理由があるにせよ、答えは自殺じゃなく他殺。

だとしたら一問目と同じで、問題の中に答えがあるのかも……………


(……あ!もしかして……!)


漸く閃いた単純な答えに、局長さんはアハハと笑ってポンポンと陽気な拍手を僕に手向けた。


「ツンツン頭の上に豆電球が見えたから、答えてイイよ?なるほどちゃん」

「マメ……あ、ええとですね、答えは他殺です。理由は、問題の冒頭に『殺されていた』と言っていたからです。自殺なら『死んでいた』になる筈ですから」

「ウン、花マル!これもねぇ、タケノコくんだったかな?御剣クンと一緒に居た時に言ってみたんだケド、『殺されていたんなら他殺ッス!』って敬礼で即答してねぇ。御剣クンにスゴイ目で睨まれてたなァ……」

「タケノコじゃなくて糸鋸さんですけど───ゔぅ、糸鋸さん即答したんだ……」


糸鋸さんにすら負けてしまい、僕はガックリと肩を落とす。
局長さんのペースにまんまと嵌り、しかもその雰囲気にすっかり飲み込まれてしまったから。

気付けば二問共に不正解で、既に崖っぷちの状態になっている。
次の問題に不正解で、もれなく色々な危機が訪れてしまうのだ。


「なるほどちゃんはナゾナゾ苦手なんだねぇ」

「……局長さんの問題が難し過ぎるだけです」

「ン〜……じゃあ、なるほどちゃんにボーナスタイム!ボクにナゾナゾ出してみて?不正解なら一歩下がってあげるよ?正解したら速攻で第三問!」

「えっ、本当ですか!あ、じゃあ御言葉に甘えて!」


まさかのボーナスタイムに僕は嬉々として、その挑発に当然乗る。
ここで局長さんを後退させれば逆転のチャンスになるからだ。

なぞなぞ、と考えて過去を遡り。
昔、矢張が得意気に『オレ様のなぞなぞは天下一品だぞ!』と言っていた問題を記憶の奥から引きずり出した。

これは難しかったなぁと、昔を思い出す。
担任の先生ですら答えられなかった問題だし、これならば多分───


「突き抜くものだけど、突き抜けるとなくなるものとは一体何でしょう?」

「ン!漢字の『矢』、だね?突き抜けると『失』になるからねぇ」

「ゔ……正解です、局長さん……」

「アハハ!愉快だねぇ……実にイイ問題だったよ!じゃあ早速、第三問!」


───という希望は余りにアッサリ即答され、海の藻屑と化した。
僕は崖から半分くらい身を乗り出している様な気分のまま、局長さんは余裕な笑顔のまま、最後になるかもしれない問題を口にする…………



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