RED MOON1

□カメラ越しの遊戯
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†4
 ―カメラ越しの遊戯―






「……が……です――」

「明日の……つも……東――――」


聞き覚えのある声が途切れ途切れに聞こえ、闇深くに沈んでいた意識をひとつ、またひとつと呼び覚ましていった。

暫くして会話らしき声が消え、扉の開閉音がした後に、絨毯を踏み締める靴音が自分へと近付いてくる。

そして間もなくキシリと音がして、横たわる身体が僅かに揺れた。
熱を帯びた重い瞼を無理矢理開き、気配のする方へ視線を向けると、見慣れたベストの背がぼやけた目に映る。

この空間には存在する筈のない姿に驚き……未だに痺れる唇は割れ、その名を口にした。


「神ノ木―――ッ?!」

「――――あァ……」


立て続けに、何故此処に貴様が居るのかと問い質すつもりであったのだが。

しかしそれよりも早く、背を向けたままの神ノ木が独り言を呟くような口調で話し掛けてきた。


「『始まり』が先か、『終わり』が先か……ソイツを選択したからといって、一体何が変わる?」

「…………。」

「クッ…!コイツはまるで、自滅回路の作動だぜ……」


神ノ木の漏らす言葉の意味は分からずにいる。

……ただ。

仕組まれたビジョンの先に、局長が自分へと呟いた言葉の中に『神ノ木』を指すものがあったと気付いた時、酷く悪い予感がした。
それが己と局長間のみに通ずる『回答』であったのならば、そのような不安を抱く事はなかったのだが――――


(成歩堂………)


胸奥に呟いた彼の名に、その不安は全て集約していた。
再び上下にと揺れ動く身体に覆いかぶさる影も、今はもうどうでも良いことでしかなかった。

精神と肉体が切り離された不安定感。
夢遊病患者のように、心はその名ばかりを繰り返す。


(成……歩堂…………)





……それからの事はまるで覚えていなかった。
傍らで昇ったばかりの朝日を眩しげに睨みつける神ノ木の素顔も、もはや眼中にない。

ただ、一刻も早く―――成歩堂の受けた心の傷を強く抱きしめたいと思うだけであった。


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