スパイラル

□不必要な必要
1ページ/1ページ






少し、今更だと思った



でも








「よー、鳴海弟。生きてるか?」
「香介!もっと言葉があるだろ!」

途端に病室内が騒がしくなる。
それに溜め息を吐き、二人の来客者に顔を向ける。

「久しぶりだな。何のようだ?」

俺の質問に、浅月はにやりと笑った。





『清隆に言われてな』





そう言って浅月が置いていった緑の物体。
それを何枚もの色紙が彩っている。

「今日は七夕か……」

それはまぁいい。
だが、どうしてこの部屋に置いていくんだ。
更に目の前に置かれた短冊。
俺に書けということか。

何枚もぶら下がった短冊を見てみる。

『負けない』
『頑張る』
『長生きする!』

そんな感じの内容が繰り返されるだけ

当然といえば当然か

それは彼らの常の願い

ふと、二枚の短冊が目に留まった。

『オリンピック出場』
『とりあえず稼ぐか』

「……あいつらか。」

分かり易い

皆が願うようなありきたりなものじゃなく
気を使ったつもりなんだろうか

「弟さん、入りますよー。」

そう言って入ってきた小さい陰を見たのは随分と久しぶりだった。

「随分珍しい客だな。元気だったか?」
「はい!弟さんもお元気そうで。」

にこにこと入ってきた竹内は、笹の前で止まった。

「少しくらいなら時間がとれたので、自分で持ってきたんです。」

そういうと、短冊を括り付けた。

『身長が伸びますように』

「……さすがにもう無理じゃないか?」
「あたしは信じますよ、伸びるって!」
「……そうか。」
「それじゃ、もう失礼しますね。お元気で。」
「あぁ。そっちもな。」





「生きてたか、ナルミアユム。」
「ノックしろ、ラザフォード。」

続いて現れた客は、遠慮なしに病室に入ってきた。

「お前もこれか?」

そう言って笹を見れば、肯定の気配を感じた。
ラザフォードが付けた短冊には、何も書かれていなかった。

「……何がしたいんだ?」

ふっと、笑うと、空を見上げ、こう言った。

「今更願うことはない。目標として進むだけだ。」

晴れやかな顔で言うと、ドアへ向かう。

「そうか……気をつけて帰れよ。」
「お前も、死ぬなよ。」
「あんたも、負けるなよ。」

その言葉には返事せず、病室を出て行った。










「入るわよ。」

煙草代わりの飴をくわえながら入ってきたのは、土屋キリエだった。

「あんたも七夕か?」
「そうよ。あの兄貴どうにかしなさいよ。苛立たしいったらありゃしないわ。」
「あれでもましになったんだ、妥協しとけ。」

本当に苛立っているらしく、舌打ちしながら大股で笹に近付く。

「じゃあね、用はこれだけだから。」
「あぁ。」

そしてまた大股で病室から出て行った。

彼女が残していった短冊を見たところ、こう書いてあった。

『休みを寄越せ』

「………。」

しかも殴り書きのため、読みにくかった。









「歩、書けたか?」

ノックの後にそう言いながら入ってきたのは、兄貴と姉さんだ。

「ってあら、何も書いてないじゃない。」
「ネタが思い浮かばなくてな。」
「別にネタじゃなくて良いわよ。」

呆れた口調で返してくるが、どこか楽しそうだ。

「そういう二人は書いたのか?」
「勿論だとも。ほら。」

持っていたらしい短冊をひらつかせる。

『さっさとやることやって死ぬ』
『のんびり楽しむ』


…………。

「老夫婦か。」
「まぁ失礼ね!まだ全然ピチピチよ!」
「そうだぞ、歩。私達はこんなにもピチピチじゃないか!」

自分でピチピチと言う辺りが既に怪しいとは思うが、口には出さない。

まぁ二人らしいと言えば二人らしく、それにやっぱり、気を使わせてるのかもしれない。

「というわけで、書いてないのはお前だけだ。さっさと書け。」
「はいはい。」

溜息を吐いて、短冊に文字を走らせる。
左手が使えないため書きにくかったが、何とか書き上げた。

書いた事に満足したのか、兄貴はその短冊を笹に結び付けると、姉さんを連れて早々に病室から出て行った。



白い病室の中で、色とりどりに染まった笹が揺れている。



『なるべくなら、良き日々が多くありますよう』



少し、今更だと思った




でも



こういうのも、悪くない





―終―
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ