スパイラル

□ささやいた願いは
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「歩ー、生きてるか?」

そう清隆の声がして、白い扉が開けられた。

「あぁ、とりあえずな。」

不敵な笑みで返す歩。
しかし、その体はもうほとんどいう事を聞かない。

「誕生日おめでとう、歩。また一歩タイムリミットに近づいたな。」

そう、運命が下したタイムリミットは、あと一年もない。

「兄貴こそ、おめでとう。これからも孤独の中を懸命に生きることだな。」
「それだけ言えるならまだ大丈夫そうだな。」

自分で椅子を出し、歩が横たわるベッドの横に腰を下ろす。

「何か、欲しいものはあるか?」
「…そうだな、ちょっと、耳貸してくれるか?」
「ん?」

歩の口元に耳を近付けてやる。

と、頬に温かいものが触れた。

驚き、歩を見れば、顔を赤くし、そっぽを向いている。

「誕生日…プレゼントだ……他にあげられるもの、ないしな。」
「…そうか。」

歩が口付けた頬が、嬉しさでこそばゆい。

「じゃあ、私もあげなきゃならないな。」

苦笑いするが、その声は楽しさに弾んでいる。

「くれなくて……いい、から…」

歩の声が、擦れていく。

「だ、から…」

ゆっくりと目蓋が落ち、規則正しい寝息が聞こえだした。

眠る直前、歩から聞いた言葉が、脳裏で反芻される。
自然と、笑みが零れる。

「やすいプレゼントだな。」

そっと、歩の髪を撫でると、歩が微笑んだような気がした。



『…傍に、居てほしい。』



―終―
 

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