R-Dream

□末っ子と妹
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 窓から差し込む日差しに眉を顰めながら、華奢な作りの腕時計にもう何度目をやっただろうか。

「んん?まだ行っていないのか」
「相変らず良い香りだね、ウッドマン」

 博士は趣味が良いねえ、と言うと鼻を何度かすん、と鳴らし田中は仄かに漂う檜の香りを楽しむ。
 一人分のスペースを空け、隣に腰を下ろしたウッドマンににじり寄ると、脚にめがけて倒れこみ、そのまま膝枕をする形になった。
 些か硬めではあるが、どっしりとした太ももは非常に安定感があって心地よい。

「そういうのはおれらがしてもらうもんだろ、ふつーよお」
「よい脚ですなあ」
「聞いちゃいねえ。ていうか早く出かけろよ、もう昼になるぞ」

 呆れたように田中を見下ろすとそれはもう見事な脹れっ面をしている。そんなことを思っているとごろりと身体の向きを変え顔を逸らされた。

「だって、帰ってこないんだもん…。皆こんなに気合い入れてくれたのに」

 言いながら、ひざより少し高い位置にあるスカートの裾を軽くつまみあげひらひらと揺らす。
 今朝から他のナンバーズがやけに騒がしいと思っていたらなるほど、田中の変身を手伝っていたのか、と得心がいった。
 折角の外出だからおしゃれをしてみたい、という田中の珍しく女の子らしいお願いに、色めきたったナンバーズ。
 誕生日にスターマンからプレゼントされたリップグロスをはじめとする化粧品一式。しからば、とシャドーマンがそれを使い雑誌を参考にメイクをし、果てはヘアメイクまでも施してくれた。
 メイクは不自然にならぬようナチュラルに仕上げられ、普段は櫛を通すだけで適当に縛りっぱなしの髪も編みこみとコテを駆使したシャドーマンの手により適度なゆるふわ感を実現している。
 服のコーディネイトに関してはそれぞれの好みが大爆発、やれミニスカートだ、絶対領域だ、スキニーのぴったり感だと収集がつかない事態になり、結局ここでもスターマンとシャドーマンが燃え上がる他のナンバーズを圧倒的なスルースキルを持って受け流し、田中の好みも反映しつつ無難に、それでいて流行に則った可愛らしいコーディネイトに落ち着いた。
 
「田中よ、サンダルかパンプスは持っておらぬのか」
「靴はこれといつものサンダルしかないよ」
「フラッシュマンに買ってもらえばいいのよ」

 デートなんだから、たまにはもっと甘えちゃいなさい、という言葉にみるみる田中の顔が真っ赤になっていき、その様子を見たスターマンが「彼がいないんならミーが彼女にしちゃうのに」とつぶやいた。

 そうして待ち合わせた時間まで、めったにない二人での外出を今か今かと田中は大層楽しみにしていたのだ。

 基本的に一人で街になど行くことはない、というか行くことができない。
 転送装置はワイリーの許可が無ければ使えはしないし、仮に博士の目を盗んだとしても、田中には操作方法などわからないのだ。
 ひと月に一度か二度しか、いつもとは違う意味で”外”には行けない。

「もうちょっとおれが目立たなかったら連れて行ってもいいんだがな」
「いいよ、休みなんだからゆっくりしててよ」
「ま、たとえおれが目立たない機体でも馬に蹴られる真似はしやしねえよ。わざわざそこまでしたんだしよ、博士の飯と夕方の畑もやっといてやるからたまには羽のばしてこい」

 頭をぽんと叩かれ、そこでようやく田中はもぞもぞと仰向けになる。

「…ありがと」

 まだ些かむくれた声ではあったが、先ほどよりは機嫌を持ち直したようだ。
 その後もウッドマンの膝枕で田中が眠りに落ちるまで、他愛もない話に花を咲かせた。




「…何してんだ?」
「子守りだよ子守り、誰かさんが遅いもんだから不貞寝しちまった」
「悪いな」
「それは田中にいってやれよ、さあ行った行った」

 弱まることを知らない日差しに、眉間にを皺を寄せたまま眠っている田中を抱きかかえるとフラッシュマンは足早に居間を後にした。

「さて、博士の昼食でも用意するか」


 






末っ子と妹。



(手のかかるキョーダイだ)


 


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