R-Dream

□ゆき
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何代目かはもう忘れてしまったが、今のワイリー基地は山の中にひっそりと紛れ込んでいる。
春になれば山菜が、秋にはキノコも採れる。
夏には育てたトマトが瑞々しい実をつけ、食卓を彩っていた。
そして冬は容赦なく雪が降り積もるのであった。

吐く息は白く、指先は赤い。

しかしそんなことは意に介さず、田中はせっせと身体を動かしていた。
基地の暖房設備は節約のため、あまりつけることは出来ない。
そこで身体を動かし、熱を発生させることを思いついたのだった。
日頃の運動不足も解消出来る上、降り積もった雪で遊ぶこともできる、正に一石三丁というわけだ。

そして遊ぶからには何か作りたい、そう思った田中はまず大きな雪だるまを作ることにした。
今日は少し日が出ているので雪はベタ雪、絶好の雪だるま日和だ。
2枚重ねにした軍手でぎゅっぎゅと雪を丸め、転がす。
形を整えるとまたころころと転がしてそれを追ってゆく。
雪をまとってどんどん大きくなる雪だまは、あっという間にそれなりの大きさに成長した。
少しでこぼこしているが、味があって良いだろうと結論付け頭を育てるべく、新たな雪だまをその手で生み出した。

やがて頭も適度な大きさに成長し、いよいよ合体の時が来た。
少し工夫を凝らし、頭には飾りがしてある。
それを壊してしまわぬよう慎重に持ち上げようとしたが、思いの外重く持ち上がらない。

「よっこいしょっ!」

掛け声をかけるも中々うまくいかず、一度頭から離れて休憩をとることにした。
しょうがないので頭は後で誰かに手伝ってもらうことにしよう。

一つの大きな雪だるまで満足する田中ではない。
雪だるまの次は幼少からの憧れ―――そう、かまくら作りだ。

水を使うのは邪道だと聞き、雪を一箇所に集めては足で踏み固める。
その作業を延々と繰り返すと、徐々にではあるが次第に小さな山が出来始めた。
時折離れた場所から眺めバランスを整え、そしてまた盛って踏んで固める。
時々ボディプレスや踵落としを繰り出したがせっかく固めた雪が無残に抉り取られ、余計なことをするのをやめる。。
山が大きくなるのに比例して周囲の雪も踏み荒らされたり盛られたりしたために残り少なくなってきた。
一度雪を集める必要を感じた田中はダンプ片手に雪集めへと繰り出した。

――――――――――

(どこへ行ったのやら…)

昼食の時間を過ぎても姿を現さない田中にしびれをきらしたワイリーは任務も無く暇そうにしていたシャドーマンに様子を見てくるよう命じ、実際暇だった彼は御意と言うなり姿を消した。

居住施設の玄関からのびる足跡をたどり、ひた走る。
道中雪球を作っては遠投でもしていたのか、木にぶつかって砕け散った雪や蛇行したり同じ木をぐるぐると回ったような痕跡を見つけ迷ってはいないかと不安に駆られた。
移動速度を上げ、木々の間を縫うように進む。
幾らもしないうちに凹凸のある丸くて大きい雪の塊に遭遇した。
周囲に散らばる足跡から察するに田中のものだと考えて間違いないだろう。
近くには先ほどの雪の塊よりも小さく、特徴的な形をしたものが放置してあった。

成る程、雪だるまか。

水分を多量に含んだ雪は必然的に重くなる、田中には持ち上げることが出来なかったのであろう。
更に周囲を見回してもそこには田中はおらず、また森の奥へと歩を進めた。

後ろ向きの足跡をたどって。

往復分の跡はなく、単に後ろを向いて歩いただけの足跡。
何故かはわからないが、シャドーマンは田中のそれに倣って振り返りそのまま足跡をたどった。

「なっ!?」

ずっとそうして歩いていると足が何かにぶつかり、予期せぬ事態にバランスを崩しそのまま後ろに倒れこんでしまった。
冬眠中の熊ではなさそうだ、生き物にしては硬く、ぬくもりが感じられない。
というかそもそも熊はその辺で冬眠しない。
起き上がり、下を見ると結構な高さの雪山が作られていた。

「雪だるまの次はかまくらか」

いかにも田中らしい、と忍び笑いをもらし雪山から降りたところで頭部に軽い衝撃があった。
見事に命中したそれは無残に砕け散り、一瞬のうちに他の雪と見分けがつかなくなった。
当たった箇所に手をやり振り向けば目を見開いた田中の姿があった。

「いや、その、まさか当たるなんて…」

よほど驚いたのだろう、笑みが引きつっている。

「ご、ごめんなさい」

ビクビクとしている田中、その頭にそっと手を乗せるとひときわ大きく身体が跳ねた。
ぎゅっと目を閉じて身を硬くするその様子がおかしくて、当たった雪玉のことは不問にし、シャドーマンはクツクツと声を上げて笑った。

「なに、獲って食いやせぬ。何事も無いようで安心した」
「あ…」

書置きや言伝もせずに出てきたことに思い至りしゅん、と小さくなってしまう。

「ごめんなさい…」

暫く無言の二人だったが、シャドーマンがそれを破った。

「…もう良いのか?」

視線の先には、作りかけの雪山。
意図が分からず、口をあけたままぽかんとしている田中だがようやく質問の意図がわかったのか、躊躇いがちにかまくらに向き直った。

「…良いの?」
「拙者がここに居れば問題はなかろう」

とんとん、と指差すのは閉じられていない右目。
田中の表情がパッと明るくなると見る間に満面の笑みを浮かべ、嬉々として雪を集めに走った。

「すぐに終わらせるね!」

ほっぽっていたダンプを掴み雪を集め、また盛る。
そしてそれを踏むシャドーマン。
二人は再び無言になったが、先ほどのような気まずさはどこにもなかった。




田中が盛る

シャドーマンが踏む

田中が盛る

シャドーマンが固める

和らいだ空気の中幾度と無く繰り返されたその作業。
剣先スコップを使い器用に中の空間を作り出してゆくシャドーマンの手際に田中は後ろからその様子を楽しそうに覗き込んでいた。
時折出入り口に当たる穴から押し出される雪を掻き出してはまた中を覗く。

「できたぞ」

顔を出したシャドーマンと覗き込んでいた田中の頭がぶつかりそうになり慌てて引っ込むが、すぐに膝をついて喜び勇んで中へと入っていった。

「凄い、かまくらだ」

少し狭いが2人程なら入れる程度の広さは確保されており、中々快適なようだ。
凄い凄いと繰り返し、ぱふぱふと壁を叩きながら目を輝かせしきりに感心している田中を見ていると、シャドーマンは不思議に頬が緩むのを感じた。

「リアルかまくらだ」
「ああ、かまくらだな」

ひとしきり人生初のかまくらに感動した田中は、最後に先ほどから放置していた雪だるまをまたしてもシャドーマンの協力のもと、かまくらのすぐ横まで移動させた。
離れていた頭部と体はようやくあるべき場所に収まり、成すべき形を成したのであった。

「ありがとう」

その様を少し離れた場所から見ていた田中は屈託の無い笑顔をシャドーマンに向ける。
頬と鼻の頭を真っ赤にし、にこにこと笑うその顔を見ると、なんだか悪い気はしなかった。
はっくしゅん、と##NAME1##のくしゃみが聞こえ、そろそろ潮時かとシャドーマンは帰来を促すのであった。

基地に帰りつくなりシャドーマンに身ぐるみをはがされ、風呂に放り込まれた。
事前に基地に残っているメタルマンに通信を入れておいたため、外で冷えた身体にちょうど良い湯加減にまで沸かされた湯船が田中を待ちわびていた。




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