R-Dream
□300.修行中
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ちゅ、という小さなリップノイズと同時に離れる唇。
予想外の行動にクイックマンも動揺を隠せず、上擦った声で田中に問うた。
「…何、の真似だ」
「不意打ちの練習」
一瞬の沈黙の後、いたたまれない空気に耐えられなくなったのだろう、田中はほんのりと頬を染め、おやすみ!と叫びパタパタとスリッパの音を響かせながら部屋へと駆け出した。
「……っ、馬鹿が」
クイックマンは徐々に遠くなる小さな背中をただ呆然と見つめている。
思い出すのは、ついさっき触れた柔らかな感触――彼女の、唇。
「何が練習だ」
ぶっつけ本番で練習もクソもないだろう、とクイックマンは一人ごち、柄にもなく真っ赤になった顔を手の平で覆い、隠すのだった。