book3

□イヴでも忙しい人は忙しい
2ページ/5ページ

01


 愚痴ばかり言っても、終わるものは終わらない。
 教師の事情も理解している手前、適当に終わらせることだって出来ない。
 そういうわけで、ヒナギクは渋々と書類に手をつけ始める。

「うわ、これ締め切り近いじゃない……。もう! どうしてもっと早く出さないのよ!」

 別に仕事を増やされることが嫌なわけじゃない(別に嬉しくもないのだが)。
 ただ、もう少し容量良くは出来なかったのかと、ヒナギクは教師陣に小一時間説教をしたくなる。
 師走だから忙しいのは分かる。だからこそ、効率的に物事を進める必要があるのではないだろうか。

「……まあ、何を言っても今更、なんだけど」

 いくら愚痴を、不平不満を口にしたところで、日付は24日。
 後にも先にも行かないのである。
 ヒナギクは書類に判子やらサインをしながら、横目で外の様子を伺った。
 相変わらず高いところは苦手なので肉眼で見ることは出来ないが、外からは放課後からスタートした冬休みに喜ぶ生徒たちの声が聴こえてくる。

「…………」

 視線をテラスから、眼前の書類へと移す。


 これがなかったら、自分だってあの中に居たのに。
 他の生徒たちと同じように、冬休みを、クリスマスイヴを満喫出来ていたはずなのに。

 自分は生徒会長だ。
 自覚もしているし、責任だって感じている。
 だが、だからといって、ヒナギクは生徒会長である以前に普通の女子高生である。
 特別な日に、好きな人と過ごしたいと思う、普通の一人の女の子である。
 好きな人を思えば胸が痛くなるし、人気のないこの部屋を見て寂しさを覚える位には、普通の。

「……ハヤテ君はなにしてるかな」

 今日はクリスマスイヴということで、確か彼が住むムラサキ荘ではパーティが開かれると言っていた。
 彼も準備のために、忙しくしているのだろう。
 ナギや、カユラたちと共に。

 その光景を思い浮かべて、胸が痛んだ。 

「…………仕事、しなくちゃ」

 自分もそのパーティに呼ばれていたが、生憎この書類の量では参加することは難しそうだ。
 明日以降に回しても良いものも中にはあるのだが、提出期限が早すぎる書類が多い。多すぎる。

 いくら嘆こうが、不満を言おうが、寂しかろうが、胸が痛くなろうが、それで書類の量が減るほど世の中は上手く出来ていない。

 切り替えていこう。

 そう思い直して、気合を入れなおして、伏せがちだった視線を書類に向けた時だった。

「…………え?」

 ヒナギクは思わず呟いた。
 書類の山が一つ、消えていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ