book3
□イヴでも忙しい人は忙しい
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愚痴ばかり言っても、終わるものは終わらない。
教師の事情も理解している手前、適当に終わらせることだって出来ない。
そういうわけで、ヒナギクは渋々と書類に手をつけ始める。
「うわ、これ締め切り近いじゃない……。もう! どうしてもっと早く出さないのよ!」
別に仕事を増やされることが嫌なわけじゃない(別に嬉しくもないのだが)。
ただ、もう少し容量良くは出来なかったのかと、ヒナギクは教師陣に小一時間説教をしたくなる。
師走だから忙しいのは分かる。だからこそ、効率的に物事を進める必要があるのではないだろうか。
「……まあ、何を言っても今更、なんだけど」
いくら愚痴を、不平不満を口にしたところで、日付は24日。
後にも先にも行かないのである。
ヒナギクは書類に判子やらサインをしながら、横目で外の様子を伺った。
相変わらず高いところは苦手なので肉眼で見ることは出来ないが、外からは放課後からスタートした冬休みに喜ぶ生徒たちの声が聴こえてくる。
「…………」
視線をテラスから、眼前の書類へと移す。
これがなかったら、自分だってあの中に居たのに。
他の生徒たちと同じように、冬休みを、クリスマスイヴを満喫出来ていたはずなのに。
自分は生徒会長だ。
自覚もしているし、責任だって感じている。
だが、だからといって、ヒナギクは生徒会長である以前に普通の女子高生である。
特別な日に、好きな人と過ごしたいと思う、普通の一人の女の子である。
好きな人を思えば胸が痛くなるし、人気のないこの部屋を見て寂しさを覚える位には、普通の。
「……ハヤテ君はなにしてるかな」
今日はクリスマスイヴということで、確か彼が住むムラサキ荘ではパーティが開かれると言っていた。
彼も準備のために、忙しくしているのだろう。
ナギや、カユラたちと共に。
その光景を思い浮かべて、胸が痛んだ。
「…………仕事、しなくちゃ」
自分もそのパーティに呼ばれていたが、生憎この書類の量では参加することは難しそうだ。
明日以降に回しても良いものも中にはあるのだが、提出期限が早すぎる書類が多い。多すぎる。
いくら嘆こうが、不満を言おうが、寂しかろうが、胸が痛くなろうが、それで書類の量が減るほど世の中は上手く出来ていない。
切り替えていこう。
そう思い直して、気合を入れなおして、伏せがちだった視線を書類に向けた時だった。
「…………え?」
ヒナギクは思わず呟いた。
書類の山が一つ、消えていた。