ヒナの使い魔
□第七章
2ページ/7ページ
…
『土くれのフーケ』という名の盗賊が、今貴族たちの間で恐れられているらしい。
その盗賊は言葉の如く土属性の魔法を使う上級魔法使い。故に『土くれ』。
より高価な、より貴重なマジックアイテムを対象に盗賊活動を行っているらしく、昼間ヒナギクたちが訪れた武器屋の店主が話していた『最近下僕たちにも剣を持たせる貴族が増えている』というのも、このためである。
しかしこれほどまでに貴族が躍起になって備えているというのに、何故彼らはフーケを捕らえることが出来ず、また、希少価値なマジックアイテムをあっさり盗まれてしまうのだろうか。
その理由は単純にして明快。行動が読めないためであった。
フーケの盗みの手口というのが、下僕たちにも、貴族たちにも読めないくらいに不規則なものだったのだ。
とある屋敷に繊細に忍び込んだかと思えば、その屋敷を粉々に破壊して対象を盗んだり、堂々と正面から屋敷の門を突破したかと思えば、夜も深まる頃に息を殺して侵入する。
しかし、貴族たちが頭を悩ませているのは、これだけではない。
日本―――ハヤテたちの世界で考えれば、強盗が大豪邸に侵入し、目的のお宝まで来たところで、山のようなセキュリティシステムが働くだろう。
貴族たちも、現代日本とまではいかなくとも、魔法を使ってある程度のセキュリティシステムは構築しているのだ。
だがフーケの『錬金』は、それ以上なのだった。
錬金とはフーケの盗みの手口で、扉ではなく、扉の周りを覆っている物質を土や粘土に変えてしまう魔法だ。
いくら扉を頑丈にしようとも、いくら周りを『固定化』しようとも、フーケの魔法はそれを遥かに上回る。
あらゆるものをただの土くれに土や粘土に変える。『土くれ』。
それが彼女の二つ名、『土くれのフーケ』。
当然の如く、彼女の正体を見たものは誰もいない。男か女かすら分かっていない。
だから―――。
「………随分と分厚い壁だこと」
魔法学院の外壁に、垂直に立って壁の厚みを確かめているこの人物が男なのか女なのか、誰にも分からないことは当然なのだろう。