ヒナの使い魔
□第六章
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どこの世界でも夜の終わりは変わらない。
太陽が昇れば則ち朝なのだ。
もっとも、この世界に太陽というものがあるのかはともかく、こうして日が昇り、双月が浮かぶトリスティンに朝が来た。
貴族達が起きる時間よりもずっと早い時間に、窓から射す日の光でハヤテは目を覚ました。
「ん…。朝か…」
ハヤテは伸びをしてベッドから起きた。
傍らのヒナギクはまだ寝息をたてている。
相変わらず寝顔が可愛い。
桜色の長い髪が陽光に反射し美しく輝いている。
「―――」
毎朝見てはいけないと気をつけつつも、視界に入ってしまうと息が止まるくらいに見入ってしまう。
整った顔立ち、長い睫毛、寝息をたてる柔らかい唇。
何故柔らかいと言い切れるか、それは。
『――我が名はヒナギク・ル・フォーン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴンよ、――この者に祝福を与え、我の使い魔と為せ』
『あ、あの…。何を?』
『……うるさいわよ』
己の唇が知っているから。
ヒナギクの唇は、マシュマロのように柔らかかったのだ。
「……馬鹿なこと考えてないで顔を洗おう」
朝っぱらから何を考えているのだと頭を振り払って、ハヤテは洗顔ついでに、ヒナギクの洗顔用水を汲みに部屋を出た。
今日はヒナギクを早く起こさなければならない。
『虚無の曜日』という祭日らしい今日は授業はない。
話によれば生徒たちは各々で好きに過ごすという。
ヒナギクを早く起こすという理由もそういったもので。
「この世界の街かぁ…。どんな風になってるんだろ?」
ヒナギクの虚無の曜日の予定は、使い魔とのお買い物なのであった。
―――第六章【ハヤテと双剣】