あやさきけ

□新聞
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 早朝。
 綾崎家のリビングでは、アイカが新聞を広げていた。

「………」

 父親譲りの空色の瞳に意志の強い光を宿らせ、眼前の新聞を見る。

 とことん、見続ける。



「おはようヒナギク。一体、アイカはどうしたの?」


 そんなアイカから少し離れた所、ハヤテは何やら複雑な表情で我が子を見ているヒナギクに尋ねた。

「あ、おはようハヤテ」

 愛する夫からの挨拶でヒナギクはハッとし、ハヤテに挨拶を返した。
 そのヒナギクの挙動を不思議に思いつつ、ハヤテは続けてヒナギクに問う。

「…ヒナギク、何かあった?」
「え? 何で?」
「なんか難しい顔してるからさ」

 悩み事?とハヤテは心配そうにヒナギクを見る。
 ハヤテの言葉にヒナギクは「そんなところ」と苦笑しながら答えた。

「ちょっと我が子の行く末が心配になったのよ……」
「? アイカがどうかしたの?」

 心配の色を浮かべるハヤテに、ヒナギクは視線をアイカに向けて訴える。

「………? 別におかしなところはないよ?」

 ハヤテの視界に映るのは真剣に新聞を読む愛娘の姿。
 読めない漢字を一生懸命読もうとするその姿勢をハヤテは誇らしく思う。

「朝から新聞を読むなんて感心じゃないか」
「……まぁ」
「僕はむしろ、学習意欲が強くて安心するけど?」
「まぁそうなんだけれど」

 ハヤテの言葉にヒナギクは小さく頷いて、言う。


「ねぇハヤテ」
「うん?」

 ヒナギクの表情はやはり、どこか浮かなかった。

「……あの娘が今見ている新聞の欄ね」
「うん」
「テレビ欄なの…」
「メディアに興味があるんだね」
「対象は、深夜にやるアニメオンリーよ」
「………」
「どうすればいいのかなぁ…」

 ヒナギクの言葉に、ハヤテは渇いた笑いで答えた。

「はは……そうなの?」
「残念ながら……」

 ハヤテもアイカに寄って新聞を見てみたが、それ確かにテレビ欄だった。

 しかも御丁寧にも、深夜帯のアニメにマーカーが引かれている。
 一体誰の入れ知恵なんだか。

「………」
「ね? どうしたものかって思っちゃうでしょ?」

 年端もいかない小学校低学年の幼子が、意気揚々と深夜アニメにマーカーを引いているのだ。
 これを心配しない親がどこにいるというのか。

「………育て方考えますか?」
「そうね……」

 深い溜息を吐きながら、ハヤテとヒナギクは肩を落とした。

 清々しいはずの朝。

 しかし綾崎家のリビングには、ハヤテとヒナギクの鈍よりとした空気と、マーカーを引く音だけが響く。


「………野球中継がえんちょーしませんよーに」
「「おいおい」」




End




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